Web連載「出版の原点からー出版クラブ活動」 青田 恵一
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●Web連載「新・棚は生きている

出版の原点から

日本出版クラブの被災地支援活動(その4)

青田恵一

(前回からつづく) 

7 最後に日本出版クラブでもう一度!
  「東日本大震災 3・11以降の全出版記録『本の力』展」
 

 日本出版クラブは2013年8月1から15日まで、同クラブ会館において「東日本大震災 3・11以降の全出版記録『本の力』展」(以下、「『本の力』展」)を開催した。タイトルでもわかるように、東日本大震災以降に刊行された本を、ひとつの会場に総結集したのである。

 2011年4月から2013年6月までに出版された3・11関連書は、出版科学研究所によれば2352点で、このうち出版社の協力が得られた作品、1440点が出品された。約6割である。6割とはいえ、一挙に展示された実際の場にたたずむと、スケール感はとてつもなく広大であり、「たった2年半でこんなにまで増えていたのか」と、そのインパクトに圧倒された。

 「『本の力』展」の詳細は、『出版クラブだより』2013年11月1日号にレポートしているので、ぜひご覧になっていただきたい。 

(1)「『本の力』展」の分類 

 その衝撃は行って見た人にしか伝わらないと思われる。「『本の力』展」は、出版界が3・11以降、この大災害にどう対してきたかの〝答〟でもあった。東日本大震災にかかわる問題が風化しつつある現在、「本の力」展には「風化を許さないぞ」という決意と覚悟が感じられた。

 衝撃は探しやすい分類からもきていた。大型の書店では、3・11問題を、地震、津波、原発、それ以外と4つくらいにわける店が多い。これに対し「『本の力』展」では11(10テーマ+雑誌)に分類されていた。 

 以下に商品構成と棚割りの表を載せておきたい。 

番号

項目

細目

絵本

文芸作品(詩・小説等)

写真集

報道

原子力発電

システム 事故 再稼動 核 節電 エネルギー問題

放射能

被爆 放射線量 農業・畜産業・漁業食糧問題(福島問題)

地震・津波

今回の発生メカニズム 災害史 避難(震災)

被災者・被災地

被災状況、家族 暮らし 幼児・児童 中高生 老人

心理的ケア

命を守る 宗教 医療 病院

防災・減災

地域 学校 企業、行政等の取り組み

復興関連

政治・経済・法律 これからの暮らし

10

その他

支援活動 手記 教育 学校

 

雑誌

雑誌

  この分類は、11の大きな分け方が的確であるが、それだけでなく、一つひとつのテーマをていねいに位置づけてもいる。特設棚をつくっている書店には、種々刺激になるのではないか。なおこの分類表は、被災地支援をつづけている図書館司書、斉藤紀子氏が、日本出版クラブの要請を受けて作成したものである。 

(2) 〝品揃え〟上の特長 

 「『本の力』展」における〝品揃え〟上の特長は3つ存在する。 ひとつめはテーマ設定が〝人間的〟なことである。上記表「6 被災者・被災地」のなかの「家族」「暮らし」「幼児・児童」「中高生」「老人」、「7 心理的ケア」の「命を守る」「医療」、「9 復興関連」の「これからの暮らし」、「10 その他」の「支援活動」「手記」等々のキーワードの奥からは、被災地で生き抜く人間の姿が、浮かび上がってくるように感じられる。 

 ふたつめは、原発問題の本が相当数あったこと。什器11列のうち、「原子力発電」と「放射能」合わせて3列だから、3割弱の棚がこのテーマで占められたことになる。東日本大震災前はあまり動かなかった分野にもかかわらず、この規模まで激増した。この規模、この数は出版界の持った危機感、社会が感じた不安というようなものを、どこかで反映しているのかもしれない。

 3つめは、絵本をはじめ子ども向けの本が意識してアピールされていたことである。児童書が目立っていたことは『出版クラブだより』にも記したが、将来を担う幼い子どもたちに、なにかを託そうというメッセージとも受け取れた。 

(3) 今後への期待――〝完結編〟をもう一度 

 来場者の声で最も強かったのは、「これ限りで終わらせないで欲しい」というものだった。この声に応える形で、図書館を中心に全国巡回展が実施、あるいは予定されている。たとえば、9月には熊本の森プラザ図書館、10月には横浜の第15回図書館総合展でも展示された。 注目されるのは、全国を一巡後、最後に、日本出版クラブで、もう一度〝完結編〟をという声があることだ。耳を傾けるべき提案ではないか。

 思えば今回、残念だったのは、参加していない出版社の刊行物と、その場では出会えなかったことである。日本出版クラブの会員かどうかも、あるいはあったのかもしれない。

 それにしても、2352点がすべて一堂に会したら、どれほどのインパクトを発するのか。さぞかし、もっとダイナミックでもっと衝撃的な空間を創造するにちがいない。ましてそのころ、刊行点数はかなり増えているはずだ。これが実現した〝場〟をぜひとも見てみたい。 

 日本出版クラブは、この際、そのような声に応え、〝完結編〟をなんとか具体化させて欲しい。関係者の配慮と決断を期待する。その場合、3・11の関連本を刊行しているすべての出版社は、参加と協力を改めて検討してもらいたいと思う。

 そしてその姿を、出版業界内はもちろんのこと、被災者、一般読者、企業経営者、マスメディア関係者などの方々に、より多く見ていただきたい。書店で働く人たちにも足を運んで欲しいし、本と書店の役割のようなことも、その場所で再考できたらいいなと考える。 

(次回につづく)