Web連載「出版の原点から――日本出版クラブの被災地支援活動(3)

●Web連載「新・棚は生きている

出版の原点から
日本出版クラブの被災地支援活動(その3)

青田恵一

(前回からつづく)

6 読者の声
 出版人の理念や被災地への〝思い〟は、はじめに紹介した種々の活動を経て、果たして読者にどのように届いているのだろうか。このことを検証できるのが、読者の反応の声である。
 良いことをやれば感謝される、というほど、ことは簡単ではない。被災地への出版界の〝思い〟が心からのものであっても、直接被災者の心に届くとは限らない(むしろ、届かないことも少なくない)。しかもその最終判断は、〝思い〟を届けられた方々がおこなうことになる。では実際どうだったのかを、読者、とりわけ児童の声を、日本出版クラブに寄せられた感想から探ってみた。
 日本出版クラブにはお礼の手紙が数多く来ている。ちょうど、同クラブと雑誌協会、書籍協会が設立団体である〈大震災〉出版対策本部が、福島・宮城・岩手の被災3県に、図書カードを寄贈した際のお礼の手紙を目にすることができた。嬉しいことに、私の故郷、福島県相馬市の小学校からも、お礼の声が届いていた。そのなかから、いくつか例をあげたい。

  図書カードをくださった方へ

 この震災で被害をうけた福島県相馬市中村第一小学校に「1000円ぶんの図書カードをくださって本が好きなぼくはとてもうれしかったです。いまはまだ使っていませんけど、文芸堂やブックオフやいろいろなところで、ぼくが読みたい本はこの図書カードで買いたいと思います。本当にありがとうございます。
 本を好きな少学生の喜びが、ビンビンに伝わってきそうな文面である(文芸堂は相馬市の大型書店)。再出発に向けて努力を誓う内容のもあった。 

図書カードをおくってくれた皆様へ

 今回は、千円の図書カードをくださり、本当にありがとうございました。図書カードをくれたおかげで好きな本を買えました。これから復興できるようにわたしもがんばります。なのでこれからもわたしたちを応援してください(中村第一小学校)。
 子どもたちの文章を読んで、目が潤んでくるのはどうしてだろうか。

 同じく相馬市の市立桜丘小学校の生徒の手紙。 

  図書カードのお礼

 図書カードありがとうございます。東日本大しんさいでわたしの家が津波で流され、それまで持っていた本がすべて流されました。また、原発じこで外で遊べなくなる日が多くなりました。そのため本を読む時間が多くなり、本がどれだけ大切な物か分かってきました。

 ときどき本をもらったり、図書館でかりるときに、「いつもありがとう」という気持ちがあります。いただいた図書カードは、大切に使わせていただきます。本当にありがとうございました。

出版社のみなさんへ 

 悲惨な実情が簡潔な言葉で表現され、本の大切さ、感謝の気持ちがつづられている。相馬市の小学校には、私の母校である市立中村第二小学校のもあった。 

図書カードをくれてありがとうございます。わたしは夏休みに、べんきょうになるような本をかおうとおもいます。たのしみです。 

 この文章には、ただ本を買えるというのではなく、送る側の温かい気持ちに応えよう、という姿勢が感じられる。つぎも中村第二小学校からの感想。 

 図書カードをくれてありがとうございます。ぼくはなつ休みにポケモンの本を買いたいです。ドキドキします。 

 直截的な小学生の表現が微笑ましくもあるが、このドキドキ感がいい。ドキドキ感なくして読書は読書でないとも思わされる。                             

他の学校の礼状も拝見する。 

団体の方々へ

 図書カードを贈ってくれてありがとうございました。みんな本が大好きなので、とてもうれしいです。贈られた図書カードで買った本は、大人になっても残るように大切にあつかうようにします。本当にありがとうございました。 

 改めて、本の大切さを教えてもらった。 

出版クラブのみなさん、本を300さつもありがとうございます。それからとしょカードをくれてありがとうございます。じしんのせいでうちでかっているきんぎょがしんじゃったよ。本をいっぱいよんでげんきになります。(仙台市立鶴巻小学校) 

出版クラブのみなさんへ

 本を300さつありがとうございました。本をいっぱいありがとうございます。ぼくの家は、石巻でつなみでながされてしまいました。かぞくでひっこしてきました。これからいっぱい本をよみたいです。(仙台市立鶴巻小学校) 

 未経験の苦難をなんとか乗り越えた生徒たちが、本または図書カードを送られたことに感謝の気持ちを持ち、それが再出発への意欲に結びついている様子が、かいま感じられる。 

出版クラブのみなさんへ

 みなさんプレゼントでと書カードと300さつの本ありがとうございました。ぼくたちは3月11日におきた東日本大しんさいですごく大きなひがいがでました。今後また大きなじしんがくると思います。あらためてありがとうございました。これからも元気でがんばります。東京のみなさんもおげんきで。

 このなかの
今後また大きなじしんがくると思います
と危惧、もしくは覚悟している箇所を読み、私は言葉を失った。
子どものころに戻って、大震災がきたらと想像してみる。そのうえでこれらの文章を読むと、小学生たちの言葉が、胸を突き刺す力を持っていることがわかる。

ところで、被災地への出版人の思いは読者に届いただろうか。私は間違いなく届いていると思う。だがこの答は、これらの感想から一人ひとりがご判断いただくこととも考えられる。その意味で日本出版クラブには、被災地の〈言葉〉を公開する工夫をしていただきたいと思う。
 ところで、声のなかには、「この本を読みたい」と、具体的な書名があげられているのもあった。それを、書名50音順に列挙してみたい。 

● あんびるやすこ著『いちばん星のドレス』(岩崎書店

● バーバラ・オコーナー著/さんべりつこ訳『犬どろぼう完全計画』(文渓堂)

● ルース・スタイルス・ガネット文/ルース・クリスマン・ガネット絵/渡辺茂男訳『エルマーと16ぴきのりゅう』(福音館書店)

● ルース・スタイルス・ガネット文/ルース・クリスマン・ガネット絵/渡辺茂男訳『エルマーのぼうけん』(福音館書店)

● 平川陽一編/鈴木牧生絵『恐怖!! 都市伝説(第5期全4巻)』(汐文社)

● ふくざわゆみこ著『ぎょうれつのできるはちみつやさん』(教育画劇)

● アーネスト・トンプソン・ シートン著『シートン動物記』

● 青木伸生著『10分で読める物語(3年生)』(学研マーケティング)

● 岩村和朗著『14ひきのひっこし』(童心社)

● ミラ・ギンズバーグ文/ ジョス・A.スミス絵/覚和歌子訳『ねんどぼうや』(徳間書店)

● ジャン=アンリ・ファーブル著『ファーブル昆虫記』

● 穴久保幸作著『ポケットモンスター』(てんとう虫コミックス 小学館)

● ミタリ・パーキンスジェイミー・ホーガン永瀬比奈著『リキシャ・ガール』(鈴木出版)

● あんびるやすこ 文・絵『ルルとララのカスタード・プリン』(岩崎書店) 

 あと一般的な呼び方で、「おもしろい本」「おかしの本」「スポーツの本」「国語辞典」「ずかん」「こわい本」という表現もあった。

 いかがだろうか。3・11後ということを考えると、こういう本や分野があげられたその背景、動機、シーンなどが種々想起されてくるのも、そう不自然なことではないと思われた。 

                               (次回につづく)