Web連載2月号「山本隆樹氏、出版流通の変革を大いに論ず(その1)」青田恵一

●Web連載「新・棚は生きている(2月号)

出版界の007
山本隆樹氏、出版流通の変革を大いに論ず(その1)

青田恵一

山本隆樹さんをご存じだろうか。
 なにを隠そう、山本さんは出版界きっての情報通として、知る人ぞ知るの人物である。
 この人に何事かを聞いて、答が返ってこないことはない。どんな問題でも、必ずなんらかの情報がもたらされるのである。そのことから、出版業界では「出版界の007」と呼ばれるようになった。

1 山本隆樹さんのプロフィール
 
 実際お話を伺うと、たとえば書店の取引条件とかM&A、帳合変更の事前情報やその裏話、経営が危ない企業など、こんなことまで知っていては、いくらなんでもまずいだろうというような情報を、がっちりと握っていた。これではやはり「知らないことはない、なんでも知っている」という印象を深めざるをえない。
 山本さんの情報は性格がいい。いわば、量・質・スピードという、よい情報の条件が三拍子揃っているのだ。「なんでも知っている」というボリューム感に加え、その正確さ、そしてなによりそのスピード! つまり情報が正確で迅速、その数も圧倒的なのである。なぜそんなことが可能になるのか? と心底思ってしまう。が、そのことはひとまず置いて、はじめに山本さんのプロフィールを紹介しておこう。「出版界の007山本隆樹」とは何者なのか?
 
 じつは山本さん、もともとは取次会社に勤めていた。栗田書店である。栗田書店で山本さんは、書店の店長、それも銀座・松屋の書店店長として5年間経験を積んだり、ヤマトと提携してあの客注システム「ブックサービス」を発案、実行したりと、書店に近いところで活躍した。さる大手出版社とともに、企画商品の拡販にまい進した時期もある。そのあとは、15年間、テレビ朝日関係の映像会社で働き、現在は、発足させた「出版IT戦略研究所」の所長に就任している。
 出版IT戦略研究所とはなにをやる機関なのか。そう思って名刺を見ると「出版流通コンサルティング」とあった。私と同業になる。が、当方とちがって活動範囲が広い。出版社のコンサルティングが中心だが、それ以外にも、出版業界の様々な動きに関与している。
 その一例が、林幸男さんが主宰する、出版営業マンを養成するための研修機関「出版ビジネススクール」(参加された方も多いだろう)の、企画立案から講師選定、運営までを担っていることである。
こういう経歴を持つ山本隆樹氏さんが、いま出版三者を、とくに危機に立つ書店をどうとらえているのか、じっくりお話を伺った。

2 人口論からみた書店の危機論

 山本さんの書店論には大きな特長がある。
それは人口論の観点から論じられるという点である。山本さんの説くところに、しばし耳を傾けてみよう。ポイントは3つあるが、まずはその前提情報から。
 全国の都市は、政令指定都市が20、中核市が41、特例市が40、合計101の市が中心となっている。ここで見ると65歳以上の人口比率が、なんと25%を越えている。65歳以上になると、読書する機会がめっきり減るという。その層が4分の1以上になるのだから、出版界は、この点にもっと危機感を持たなくてはならない、と注意を促す。

 ポイント3つのうち、その1は生産年齢人口からの視点。
生産年齢人口とは、働ける年齢層である、15歳から64歳までの人口を指す。話題となった藻谷浩介著『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川oneテーマ21)における重要キーワードである。
予測によると、1995年にピークの8716万人だった生産年齢人口は、2015年に7681万人、2025年に7096万人、そして2050年には4930万人にまで減少していく(『デフレの正体』より)。
 ピーク期から20年で1035万人(マイナス11・9%)、30年で1620万人(マイナス18・6%)、55年で3786万人(マイナス43・4%)の生産年齢人口が消えてしまうのである。つまり働く人々が、20年で1割強、30年で2割弱、55年で4割強(ということは半分近く)まで減っていくことになる。この衝撃は深い。
山本さんは、とりわけ生産年齢人口が10万人以下の地区で、書店が減っていき最後はなくなるのではと危惧する。2012年5月の調査段階で、書店がない町は371を数える。そう山本さんは、秘密のノート(山本さん版「黒皮の手帳」?)を広げながら語る。情報通は数字にも強いということか。

 ポイントの2は、人口の構成比において14歳以下――未来のマーケットを形成する若年層の占める割合が、10%以下の地区が増えていることである。札幌、函館、京都、大阪、呉、尼崎、下関など大都市を含め増加してきた。ところによっては「町で子どもの声が聞こえなくなりつつある」らしい。
 最後のポイントその3は、同じく人口の構成比で、65歳以上の老人化率が25%を超える地区の増大である。相模原、静岡、新潟、京都などが該当する。
 高年齢になるにつれ読書率が低くなる。2009年の文化庁調べによると、1ヶ月に1冊も読まない人は60歳以上で55・5%に達している(雑誌・コミックは除く)。山本さんは、65歳以上の読者がリタイヤしたあと、読書以外に趣味が広がり多様化した結果とみている。
 
 以上を総合すると、人口動態は、いうまでもなく少子高齢化の流れを示し、なかんずく生産年齢人口の減少が、各地で進んでいることになる。「問題はそのスピードだ」と山本さんは指摘する。首都圏ではまだゆるやかでも、地方では一気に進んでいく。書店経営というビジネスモデルは、日本人の人口構成の変化により地方から順に崩壊している。シャッター商店街が増えるにつれ、書店も急減していくことを、業界全体がもっともっと深刻にとらえないといけない、書店の近未来はとても楽観できない状況にある、そう山本さんは警告する。
 
 このような危機的な状況のなか、出版三者はなにをどうすべきなのか。山本さんはそれぞれに対し、対策を骨太に提案する。以下、氏の主張をおおまかにまとめてみた。まずは出版社に対して。

3 山本隆樹さん、出版社に呼び掛ける

 山本さんは出版社に、つぎのように問題提起する。
売上50億円規模以下の出版社は、全国の書店を駆け回って、注文をどっさりもらうところが少なくない。営業だから仕方ない部分もある。だがその分は返品につながりやすいのも事実だ。無駄な注文は極力取らないで「適正部数の受注」を心がけるようにできないものか。
 大手出版社は指定配本について、数字万能の発想を考え直してほしい。過去のデータは、著名な著者とか有益な面もあるが、とはいえ本は1点1点異なる内容だから、どこまでマッチングするか、簡単な話ではない。やはり適正をどう判断するかがポイントだ。

 その意味を含め、すべての出版社に取り組んでほしいことを申し上げる。売れない商品を並べるほど死に筋商品が増え、販売の機会損失を生む。この死に筋商品を除けば、顧客との出会いを作る新たな商品を置くことができる。商品の最終的な責任を負う出版社は、積極的に商品入れ替えをおこない、もっと〝流通のコントロール〟をしてもよいのではないか。

 また、書店営業に行ったなら、降りた駅とか町、商店街を、5分、10分でいい、定点観察して、雰囲気、客層や流れをとらえてもらいたい。営業トークのスタートは、天気の話でもいいが、この話から入ってはどうだろう。自分がとらえたものを店長に伝え、お店の見方も聞きながら、受注数を考えてみる、そういうことも検討してほしいと思う。
 あと書店の問題とか悩みも聞いて、それに応えられるようになっていただきたい。以前は、大手出版社でもそういう営業マンが少なくなかったが、最近は減っているような気もする。それでも、明日香出版社やベレ出版は、数少ないその例といえよう。
                           (次回につづく)

 Web連載「新 棚は生きている(1月号)

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*青田恵一(あおたけいいち)略歴

八重洲ブックセンター、ブックストア談などで書店実務を経験。
現在、青田コーポレーション代表取締役。中小企業診断士。
書店経営コンサルティング・店舗診断・提案・研修指導。

<主な著書>
『よみがえれ書店』『書店ルネッサンス』『たたかう書店』『棚は生きている』などがある。

 
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