Web連載 「新 棚は生きている 1」 青田恵一

書店は〝街のオアシス〟である「小売業としての書店」を目指して(1)

青田恵一

書店に未来はあるか?

 酷烈な環境変化のなか、これがいま、書店に対する最も深刻な問いであろう。最近、書店に未来はあるのか、本当はどうなのか、とそう何度聞かれたかわからない。答え方は質問の仕方で変わった。未来があるかないか、といわれれば絶対あるとはいいにくい。だが書店が完全になくなるのかと問われれば、そんなことはない、あり得ないと答えた。
 もし万一にでも、書店が消滅したら、出版社、取次会社ともに、かなりの売上が減少するのだから、無傷ではすまないだろう。他業種に比べ利益率が低い出版界は、ひとつ間違えば、業界そのものがなくなってしまう。したがって、書店衰亡の危機を、手をこまねいたまま見過ごしていいはずがない。


1 書店の危機と対処の歴史

…街のど真ん中で想像する。

 人々が、急ぎ足で歩むこの街から、書店がなくなった風景を。街路イメージを。書店が消えた街を想い浮かべると、砂漠にオアシスがない寂しさ、空しさを感じる。心の中心に、ぽっかり大穴が空いたみたいな空虚さ・・・・・・。長年の書店とのかかわりが、そう思わせるにせよ、いや、だからこそ想うのである。書店は、まぎれもなく〝街のオアシス〟なのだ、と。
 もし、すべての書店が街から失われるとするなら、街自体が崩壊したときでないのだろうか。さらにいうと、書店が数店以上ある、もしくは超大型書店が存在するくらいの街が破綻するなら、それは日本の終わりのはじまり、なのかもしれない。ということは、逆に考えれば、少なくとも、日本が壊滅するそのときまで、書店は断じてなくならない、といえようか。

 振り返ってみると、書店は、悪化する状況で、批判と罵詈雑言を浴びせ掛けられながらも、創意工夫をつづけ、精一杯、努力してきた。書店だけが、なぜここまでいわれるのか、というほど中傷されたこともある。いわく「本を読んでいない」、いわく「商品知識がない」、いわく「接客態度が悪い」、いわく「取り寄せ期間が長い」・・・・・・。
 書店は、山ほどある反論を抑えつつ(ささやかな反撃はあっても)、忍耐に忍耐を重ね、辛抱強くやってきた。いくら文句をつけられようが、お客さまの要望、ニーズにできるだけ応えたい、という思いもあった。とにかく読者だけは大事にしよう、というそこは、「けなげ」としかいいようがないほど、懸命な書店も多かったのだ。もちろんそれは、書店の歴史にとって、誇り以外の何ものでもない(むろん他の業界同様、お客さまを第一に考えない店があることも、否定はできないが)。

 意欲的な書店が果敢に取り組んだのは、つぎつぎ襲ってくる危機の克服と、新たな機会=チャンスを生かすことの両面であった。
 危機克服の面でみると、コンビニエンス・ストアの隆盛と新古書店の進出には、とりわけ悩まされた。コンビニには、営業時間の延長や規模の大型化、新古書店には万引き問題への積極的取り組みや古書の導入で対処した。そのあと、書店の前には、ネット書店、電子書籍ブームが、大きな壁となって立ちはだかり、加えて現在は、東日本大震災、それに伴う原発問題、さらなる巨大地震襲来の諸情報、消費税率アップの動きと人口減の流れも、未来に暗い影を落としている。
 ネット書店と電子書籍について考えると、書店は、それらの取り込みを図りつつ、単品拡販、フェア企画など店舗における提案機能を拡大した。さらにその機能をより発揮させるため、共同化も進めてきた。それは、本屋大賞、ブックオカといった共同イベント化と、各県の主要書店を結集した新風会、仕入れを核に共同化を進めるNET21、志夢ネットなどを代表格とするネットワーク化、というふたつのスタイルを持っている。

 新たな機会=チャンスを生かすことは、郊外型書店の展開に象徴的に現われた。郊外型タイプの店は、当時、ハシリだったビデオレンタルを取り込んで、その経営基盤を確立した。また新たな業種の導入を心がけ、CD・DVD、ゲームソフト、文具、玩具、雑貨、飲食などの業種アイテムを定番とし、集客と利益上のメリットを追求した。この複合化は、元来、利益率が低い、という書店の宿命を打破する手立てともなった。ただしCD・DVDは、デジタル化時代に先の展望が立てにくく、今後の課題になっている。
 東日本大震災後の対応としては、現地書店のコミュニティ活動が注目される。真の意味で、土地に根付く書店、地域の人々とともに生きる書店、という生き方そのものが、他の書店の参考となるにちがいない。
ともあれ書店業界は、劣勢下で奮戦をつづけ、身も心も傷つき、いや満身創痍となりながらも、よくぞここまでこれたと思う。その努力は、いかほど賞賛を浴びてもおかしくない。 
(次回につづく)

 Web連載「新 棚は生きている(2)

 Web連載「新 棚は生きている(3)


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*青田恵一(あおたけいいち)略歴

八重洲ブックセンター、ブックストア談などで書店実務を経験。
現在、青田コーポレーション代表取締役。中小企業診断士。
書店経営コンサルティング・店舗診断・提案・研修指導。

<主な著書>
『よみがえれ書店』『書店ルネッサンス』『たたかう書店』『棚は生きている』などがある。