Web連載「新・棚は生きている」(3) 青田恵一
書店は〝街のオアシス〟である―「小売業としての書店」を目指して(3

青田恵一

書店に未来はあるのだろうか?

3 小売店としての書店――店舗ビジネスとしての要件

 最後に、店舗商いとしての事業的側面に触れたい。
店舗業には、小売業とサービス業、飲食業と3種ある。現代書店は、書店事業を核に、この3種――AV・文具・玩具等々の小売業、DVD・コミックをレンタルするなどのサービス業、喫茶・外食といった飲食業を、業種ミックスし複合化してきた。さらに現在、いわゆる「ハイブリッド型書店」を目指し、ネット書店とか電子書籍というIT系のビジネスをも、組み込みつつある。いまや40年前、50年前の書店像とは、発信する店舗イメージ、売場イメージが異なってきているのだ。
 とはいえ変わらぬものが、厳然とひとつ存在する。それこそ、柱たるべき本を売る仕事にほかならない。これなくして書店は、書店といえないだろう。にもかかわらず、この点が弱くなっていないか、一抹の不安なしとしない。書店としての骨格事業が立っていなければ、他のアイテムをいくら見つけても、砂上の楼閣になるのではと危惧される。

 そもそも書籍販売業が含まれる、小売業の機能とはなんであろうか。
 小売店の3大機能といわれているのが、販売、仕入れ、在庫の各機能である。もとよりこの3つは、それさえ回せば絶対勝てる、という充分条件ではなく、せめてこれくらいはできないと、という必要条件と位置づけられる。
 その意味でこの3機能は、人間の生活に必要な「衣」「食」「住」にたとえられる。自明なことだが、衣食住が揃っても、それだけで人生に〝幸い〟が訪れるわけではない。衣食住の必要条件に対する、仕事の成功、趣味の喜び、生きがいの充足といった充分条件が要るのである。
店舗も同じである。では店舗における充分条件とはなにか。それは硬くいうなら、小売店としてのビジョンと方法を策定し、それを踏まえた、店の基本システムを再構築、並行して出店を進める、ということにほかならない。
 店の基本システムとは、顧客を第一とするマーケティングと、それを実行するマネジメント、加えていうなら、これらを支えリードすべき経営、この3つそれぞれのシステムのことだ。
 詳しく述べれば、小売店のマーケティングは、立地、MD、価格、接客、サービス、ハードシステム(店舗施設)、マネジメントは、ヒト・モノ・カネの管理――リーダーシップ、計数管理、現金、利益、在庫の管理、万引防止、情報システム、経営は、経営管理、財務、本部機能、出店、人事・労務などの機能を、各々指す。これらは、磐石に確立されなくてはならない。

 つぎに、マーケティング、マネジメント、経営、これらのシステムを有効に働かさせるために、心すべき要件を5つ述べたい。

 (1) 一見、小さくみえる一つひとつの基本を大事にする
 (2) 「手づくりの味」で勝負する
 (3) 最新の武器とノウハウを駆使して提案する
 (4) 人材に最優先投資をし、白兵戦で勝利する
 (5) いっそ「人のため、世のため、世界のため」という気概を持つ

 若干ずつ補足していこう。

基本徹底

 書店は、「なんだ、こんなもん」「ふん、このようなことくらい」といわれてもおかしくないような、一見、小さいことだけで成り立っている(その事情は、他の小売店も変わらない)。だが100億円の売上も1円の積み重ねであるように、単店舗全体もチェーン店全体も、スタッフが懸命に取り組む小さな仕事――業務であれ作業であれ――からしか成立しないのだ。小さいと軽視せず、むしろ小さいからこそ重視したい。もう一度このことを思い出し、基本というお店の大地を固めよう。
 
手づくり勝負

 3・11以降、「きずな」「ぬくもり」「こころのかよいあい」というようなものが大切にされてきた。これらをストレートに打ち出せるのは、小売店、そのなかでも書店である。チェーン店であれ、単独店であれ、顧客の思いに関心を寄せなくては、商いが成り立たない。その象徴が「手づくり」となる。POPの手書きコメントが胸を揺さぶるのは、その端的な例である。POPだけではない。品揃えしかり、販促しかり、接客しかり、サービスしかり、店舗イメージしかり。どの局面でもこの「手づくりの味」を表現し、勝負を掛けたい。
 
最新兵器を駆使する顧客提案

 とはいうものの、総力戦では最新の兵器が、勝敗を決めることも少なくない。武器であれ、ノウハウであれ、最新のものは、どこよりも速く導入し、顧客への提案に結びつけたい。お客さまの心に届く提案だけが、提案と呼ぶにふさわしい。顧客の胸に、少しでも強く響くなら、最新兵器を駆使することを、躊躇(ちゅうちょ)してはいけない。
 
人材投資

 そしてこれらのことを、効果的に実践するのは、疑いもなくヒト、人材にほかならない。小売業の基本は白兵戦なのだ。白兵戦を担い、戦う人間こそが、経営の帰趨を決めていく。「ソフトな経営資源」とは、技術やノウハウ、人材を指す経営のキーワードである。技術とノウハウが人間にかかわる以上、人間こそが最も大事な経営資源となる。書店、出版にかかわらず、これからの企業経営は、ここが、雌雄を決する最大の決め手といっても過言ではない。人材にこそ最優先で投資しよう、と改めて呼び掛けたい。

気概堅持

 出版不況の疲れに負けてはいけないと思う。状況がこれだけ悪化しているなら、気持ちだけは、でっかく構えてもいいのではないか。この際「人のため、世のため、世界のため」という気概を持ってみたい。思い起こせば書店に入ったころ、店を作ったころ、あるいは出版を志したころ、誰もが一度、ふと「本で、世の、人の役に立ちたい」、そんなふうに思わなかったろうか。もう一回「青雲の志」を抱いてみようではないか。
 
4 まとめ

最後にもう一度訴えたい。
 書店は〝街のオアシス〟なのだ、と。街をオアシスのない空虚な砂漠にしてはならない。電子書籍が本当の〝街のオアシス〟を作れないのは、わかりきったこと。そのゆえにこそ書店は、顧客とともに生き切れる、小売店としての店づくり、売場づくりをなんとしても決行し、同業のみならず、他業種との戦いにも勝ち残らねばならない。
 これからの戦いは、街から、書店というオアシスをなくさない、むしろ、このオアシスを広げ、読者の〝幸い〟を多くの読者、顧客とわかち合う、そういうバトルなのだ。したがって、その使命を持つ現代の書店は、小売店のひとつとして死力を尽し、なんとしても、この戦さに勝利しなくてはならないのである。)

 Web連載「新 棚は生きている(2)

 Web連載「新 棚は生きている(1)


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<略歴> 青田恵一(あおたけいいち)

八重洲ブックセンター、ブックストア談などで書店実務を経験。
現在、青田コーポレーション代表取締役。中小企業診断士。
    書店経営コンサルティング・店舗診断・提案・研修指導。

<主な著書>
『よみがえれ書店』『書店ルネッサンス』『たたかう書店』『棚は生きている』などがある。