『現代の出版―70年代の出版に学ぶ=魅力ある活字世界―』植田 康夫著

出版学研究ノート

『新装版/現代の出版―70年代の出版に学ぶ=魅力ある活字世界―』

植田 康夫著

出版メディアパル・オンライン書店 

   本書は、1980年に理想出版社から上梓した『現代の出版』の復刻版である。 本書に収録した論文は、60年代の後半から、70年代に主に『週刊読書人』に掲載した記事が中心であるが、私の「出版論」のルーツ的書籍である。
 このほどの復刻版の発行にあたっては、第一部として、上智大学を定年退職する際の最終講義録である「エディターシップによる「知」の創生」を収録した。 テーマに掲げた「知」の創生という命題は、考えてみれば平凡な真理かもしれないが、その根底にある「創造力」は、現代の出版界に最も要請されるものであることを感じざるを得ない。
 出版という行為は「はじめに創造力ありき」という言葉に尽くされるのだが、このことを認識するために、私自身は、『週刊読書人』の編集を通じて、多くのことを学んだといえる。
 また、「知」の創生という命題は、「編集論」「出版論」「雑誌論」などの講義を通じて、学生諸君とともに「出版学」を学んできた基本命題であるともいえる。「出版する」という言葉は、英語でpublishであるが、実はこの言葉を英和辞典で引くと、「出版する」という意味以外に「発表する、公表する」という意味が同じくゴシツク体で書かれている。このことは、何を語っているかというと、日本語と英語がイコールで対応しない場合もあるということである。 
すなわち、「出版する」=「publish」と考えるだけでは、publishという言葉の正確な理解にはならないのである。英語のpublishは、日本語の「出版する」という言葉が意味する「本を刊行する」ということだけでなく、声を出して公的な場所で語ることも意味しているのである。「出版」とは、本を刊行することだけでなく、私的な意見を声によって公的にすることも「出版」と考えてよいのである。そうであれば、これからの出版人は、必ずしも「出版」を、本の刊行だけで考えないことである。
 いろいろな表現手段を使って、私的な意見を「公表」すればよいのである。印刷に直結する「出版」だけでなく、声による「発表、公表」もpublishの精神によって、新たな出版の可能性を拓いてゆくべきであり、そのことが、出版不況を克服する道につながってゆくはずである。この『新装版/現代の出版』が、これから「出版学」を学ぶ若い人々への道案内となれば幸いである。
     植田 康夫 発行予定:2008年5月上旬定価(本体価格2400円+税)