日本橋で際立つ文雅な書店――タロー書房その1

web連載 新・棚は生きている


日本橋で際立つ文雅な書店――タロー書房その1

青田恵一

はじめに
 

店は、都会に建てられたシャトーのように、美しいガラススクリーンのなか、スタイリッシュにたたずんでいた。知的でゴージャスなブランドイメージを発信しながら……。

岡本太郎の書店、といえば言い過ぎかもしれない。
この店にはひとつの伝説がある。岡本太郎が名づけた書店、という伝説である。しかし、じっさい聞いてみるとそれは正確ではなかった。タロー書房という店名も誤解の要因だったろう。では本当はどうなのか――この興味深い点については、のちほど触れたい。
タロー書房はいま話題の日本橋はコレド室町の地下1階にある。地下1階といっても、店は地下鉄銀座線・三越前駅、A6番改札のすぐ目の前。その改札を出るとエントランスの一部が姿を現した。
入り口で読者向けのメッセージを発見。このよう形で直接お客さまに文章で訴える店は少ない。その文章とは

 タロー書房
 「精神の散歩道」を目指す地域の書店
  
店舗設計は、九州新幹線「つばめ」の車両デザインで知られるインダストリアルデザイナー・水戸岡鋭治氏のデザイン。曲線を取り入れた落ち着きのある空間に、暖かみの感じられる木製の書架が並ぶ。小路を歩くように書架の間を巡り、本にやさしいLED照明に照らされた本を眺めているうちに、お気に入りの1冊がきっと見つかるはず。

品のある静かな文章の行間から、いつしか熱い思いと志が伝わってきた。そういうタロー書房とはどんな書店だろうか。
タロー書房は1994年、江戸の中心地、日本橋のこの地で産声をあげた。創業者は代表取締役会長の永藤哲雄氏である。路面店、1~3階100坪の書店として、2010年まで営業してきた。
同年10月28日、コレド室町がオープンした際、その地下に移転、120坪のブックセンターとして生まれ変わった。堂々たる総合書店である。近隣の金融機関や商業企業に勤めるビジネスマン、オフィスレディを中心に支持が拡大した。
さらに2014年3月28日、同店はコレド室町2、3の開発に合わせ増床を図った。店舗面積を120坪から140坪に拡張したのだ。強化したのは婦人実用書、実用書、語学書など生活情報系のジャンルである。改装オープン後の動きと合わせ、同店の現況を報告したい。

1 導入部はお洒落で独創的

店内に踏み込むと、レジカウンター手前の壁とか店舗スタッフの着用するエプロンなどから、独創的なデザインが視界に入ってきた。JR九州の九州新幹線「つばめ」や豪華寝台列車「ななつ星」をデザインしたインダストリアルデザイナー、水戸岡鋭治氏のイラストである。そういえば表の看板をはじめ、ブックカバーや包装袋、しおり、児童書近くにあるお子さま用試読ベンチに至るまで、これと同じデザインが使われていた。
長いレジカウンターの上部には、洒落た大きめの店名ロゴ。深みのある濃いブラウンの品格ある什器は木製で、棚上と通路上で天井を照らして高級感を演出するウォールウォッシャー照明(LED使用)と合わせ、カルチュアで風雅な雰囲気を漂わせる。店舗の什器・内装は、入り口メッセージにも記されていたように、いまご紹介した水戸岡鋭治氏が設計した。

店全体は南北に長い。
商品構成を知るため店をひと回りした。都心型の駅前店という立地特性を踏まえてだろう、雑誌と文庫の占めるスペースが予想以上に大きい。とはいえ近隣がビジネス街という市場性をかんがみ、経営・ビジネス書が、いい場所にふんだんに揃えられているのも持ち味と感じた。
 
北側正面入り口から入ってまずぶつかるのは、大きめのテーブル9台でつくるキャンペーンゾーンである。入り口から見て(以下、同)、左側に文庫新刊、中央に単行本(含新書)新刊、右側にブックフェア企画という構成。
中央の単行本テーブルはでっかい。なかほどに立つと、左側が経営ビジネス系、右側が文芸・人文系という設定である。
 この場所にはいまをときめく売れ筋がずらり揃う。がそれだけでなく、同店のお眼鏡にかなった新刊も少なからず並べられている。
 経営ビジネス書の分野では、冨山和彦著『選択と捨象』(朝日新聞出版)、山田英夫著『競争しない競争戦略』(日経新聞出版社)、鷲田祐一著『イノベーションの誤解』(日経新聞出版社)、ジェイコブ・ソール著『帳簿の世界史』(文藝春秋)。
文芸・人文書では、マルセル・プルーストの代表的名著で角田光代さんの訳による『失われた時を求めて 全一冊』(集英社)が真ん中に陣取り、その隣に芳川泰久著『謎とき『失われた時を求めて』』(新潮選書)が寄り添う。また、橋爪紳也著『大京都モダニズム観光』(芸術新聞社)、矢田喜美雄著『謀殺下山事件』(祥伝社)、ジェイ・ バーレサン ペニー・ルクーター著『スパイス、爆薬、医薬品』(中央公論新社)などにも存在感あり。
 
同じテーブルの反対側には新書や実用系の新刊が展開中。新書分野では、石田勇治著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)、大西洋著『三越伊勢丹 ブランド力の神髄』(PHP新書)、君塚直隆著『物語 イギリスの歴史(上下)』(中公新書)、白戸三四郎著『ビジネスメンタリズム』(経法ビジネス新書)、実用書では、岩田健太郎・石川雅之著『絵でわかる感染症withもやしもん』(講談社)、鳥集徹著『新薬の罠』(文藝春秋)、宮田俊男著『製薬企業クライシス』(エルゼビア・ジャパン)、村上文崇著『読む漢方薬』(双葉社)、和田耕治著『感染症対策ガイドブック』(日経新聞出版社)、ベン・ ゴールドエイカー著『悪の製薬』(青土社)といった医療系列の読みものが視線を釘づけにする。
ここらを眺めると、同店がねらう客層、ニーズを想像させて余りある。
この一角の小テーブルでは、通常は売りにくい大型の書籍やムック、比較的高定価なミニ豪華本を、継続的に拡販している。これまでの成果は、ブライアン・レイヴァリ著『航海の歴史』(創元社)が11冊、三井文庫編『資料が語る三井のあゆみ』(吉川弘文館)が30冊といった具合である。

西側の端を占めるブックフェアは、現在「白水社創立100周年フェア」。選書がいい。最も動いた、小澤征爾・堤剛・前橋汀子・安田謙一郎・山崎伸子編『齋藤秀雄講義録』をはじめ、ミシェル・ド・モンテーニュ著『エセー1』、ロジーナ・ハリソン著『おだまり、ローズ』、ローレンス・ライト著『倒壊する巨塔(上下)』などの単行本と文庫クセジュがセレクションされている。
ほかにミニコーナーとして、講談社文芸文庫で読む東京、新潮選書ととんぼの本、創元こころ文庫、中公文庫による谷崎潤一郎、マイナンバー制度が展開中である。さらにシャープな編集企画で注目されている出版社、東邦出版のソフトで斬新な和風装幀シリーズ、たとえば小西康隆著『日本の漁港を訪ね地魚に唸る』、白井明大著『日本の七十二候を楽しむ』、高橋こうじ著『日本の大和言葉を美しく話す』、長澤陽子監修『日本の伝統色を愉しむ』などが一箇所で拡販されていた。
7月上旬からは、タロー書房オリジナル企画の戦後70年フェアと恒例の新潮文庫の100冊を予定。

 店全体を平面図風に俯瞰(ふかん)すると、タテ長の売場を2架の中央台が「ずどーん」と南北に貫いている形。したがって通路は3本である。もっともこれは店の前半分の話で、後ろ半分は中央台が3架あるから、通路は4本となる。
商品構成は、前半分が、右側から雑誌、文芸・人文書、経営ビジネス書・新書、後ろ半分が同じく右から婦人実用書、実用書、地図・旅行ガイド、語学書、雑誌、文庫、コミックという順序。後ろ半分には、これら以外に芸術書、児童書、PC書なども、流れに沿って位置取りされている。
特筆すべきは、ストリートスタイルで右側の前後にわけて置かれた雑誌売場が、書籍との一定の関連性を武器に、誘導装置の役割を担っていることであろう。
全体として正統的な構成といえるが、ジャンル先頭の経営ビジネス書と文芸・人文書、また奥の入り口近くに配された婦人実用書は、場所、スペース、品揃えの三次元において、歴史と経験の深さを想わせる、卓越した出来になっている。

一般に、経営ビジネス書に強い書店は文芸・人文書に弱く、文芸・人文書に優れた店は経営ビジネス書が苦手といわれる。これら2ジャンルともに十八番という店は、あまりお目にかからない。まして、婦人実用書まで一流の店舗というのはないに等しい。同店は、いわばその奇跡を創り出しているといってよい。
タロー書房は、これら3ジャンルを核に、店全体の棚水準がそろって高いため、什器・内装が発する独創的なイメージともあいまって、〈文雅〉とでもいうべき雰囲気を醸し出しているのである。文雅とは、詩歌・文学などの文事に親しむ生活、洗練された趣味や道、品格の高いみやびやかな風情などを指す言葉である。タロー書房こそ「文雅の書店」というにふさわしい店ではないだろうか。
以下、この3ジャンルを中心に、同店のハイライトシーンを観ていきたい。

2 希望の棚づくり――経営・ビジネス書
 
タロー書房の特長のひとつは、先ほど触れたように、同規模店の3、4倍は確保していると思われる経営・ビジネス書である。店前半の左側に位置する同売場は、通路右側の経営書と左側の経済・金融書にわかれる。
 右側経営書サイドの棚は15本あり、新刊、経営、経営管理、経営政策、マーケティング・商業、企業・経営、知的生活、人事・労務管理へと流れていく。自己啓発中心の知的生活棚は2本あり、経営の観点から意思決定やコンサルティングなどが加味されている点がユニークといってよい。この棚の前でふと思った。この棚編集には、大企業で不祥事が止まらない昨今、自己啓発は大企業のリーダーたちにも必要では、という問題提起が秘められているのではないか、と。
ついで会計・税と税法で構成する会計棚3本、政治・社会2本がつづく。

反対左側に展開する経済・金融書が中心の棚は全14本で、経済学、金融、投資、資金運用が柱となる。その流れで法律、資格試験、力を入れているという日経新聞出版社の日経文庫や日経ビジネス人文庫となり、最後を教養新書で締める。
社長である宍戸哲郎氏の話では、タロー書房の単独店としての全国順位は、日経新聞出版社が特約店会25位、東洋経済新報社が50位、ダイヤモンド社が100位。規模を考えると、それぞれ非常に高いところにつけているといえよう。
 
経営書棚では5本持つ経営関連書に注意がひかれる。いまの売れ筋キーワードはナンバー制度関連と会社法と法人営業、イノベーションやビックデータであり、これらの棚は輝きを放っている。
このうち、ビッグデータと法人営業で各々代表する書は、前者では、NTTデータ技術開発本部ビジネスインテリジェンス 推進センタ編著『BI革命』(NTT出版)、城田真琴著『ビッグデータの衝撃』(東洋経済新報社)、ネイサン・イーグル ケイト・グリーン著『みんなのビッグデータ』(NTT出版)、後者では、大森啓司著『法人営業で成功するにはコンサルティング力を磨け!』(同友館)、片山和也著『法人営業のズバリ・ソリューション』(ダイヤモンド社)、高澤彰著『「法人営業」実習ノート』(同友館)、高城幸司著『法人営業のすべてがわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)である。
単品でみると、読まれつづけている安宅和人著『イシューからはじめよ』(英治出版)、照屋華子・岡田恵子著『ロジカル・シンキング』(東洋経済新報社)、ピーター・M・センゲ著『学習する組織』(英治出版)も平積み継続中。
つけ加えるべきは、この棚には経営書の古典といえる何点かが、着実に在庫されていることだ。それはハーバート・A・サイモン著『経営行動』(ダイヤモンド社)、アルフレッド・Ⅾ・チャンドラーJr著『組織は戦略に従う』(同)、C・I・バーナード著『経営者の役割』(同)、F・A・ハイエク著『隷属の道』(春秋社)、マイケル・ポーター著『競争の戦略』(ダイヤモンド社)等々々のことである。
困ったら、迷ったら、壁にぶつかったら原点に還ろう、――これらの名著の品揃えにも、その底には、このような主張が込められている模様である。

経済・金融書では、なんといっても、3本を確保した金融書が、メガ・ブックセンターに引けを取らないボリューム感を放つ。パンローリング本が多いが、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ロバート・キヨサキなど著名投資家の本も目に留まる。売れ筋は、上野泰也著『トップエコノミストが教える金融の授業』(かんき出版)、川本裕子著『金融機関マネジメント』(東洋経済新報社)、フェリックス・マーティン著『21世紀の貨幣論』(同)など。
最近ではスチュワードシップ・コードやコーポレイトガバナンスに関するものの動きがいい。スチュワードシップとは財産管理者の意味で、スチュワードシップ・コードやとは、財産管理者になる機関投資家が、対話などを通じ投資先企業の成長を促すとか、責任を持った行動を取ることを指す。北川哲雄編著『スチュワードシップとコーポレートガバナンス』(東洋経済新報社)、藤井智朗・笹本和彦監修『スチュワードシップ・コード時代の企業価値を高める経営戦略』(中央経済社)、ジェイ・ユーラス・アイアール著『スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード』(同友館)がその代表格である。

タロー書房の経営ビジネス書売場から学びたい最大のものは、基本的な事柄を徹底したうえで、現代企業とそこで働く人々に、売場全体あるいは本と本の〝行間〟から、未来に向けた希望のメッセージを発しているところだろう。
分類が明快で正確だから表示の流れも自然で安定感があること、顧客動向を単品だけでなく棚割り単位でもつかんでいること、その裏づけとしてキチンとしたデータ管理がなされていること、つまり、これらをとおし「1冊1冊の本がなぜここにあるのか」という品揃えの必然性がお客さまに伝わっているため、誰もが棚に秘められた明るいメッセージを読み取れる。その意味において、タロー書房の経営・ビジネス書の棚は「希望の棚」と呼ばれていい。

(次回につづく)

 
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