Web連載6・7・8月合併号「出版の原点から――日本出版クラブの被災地支援活動(2)

●Web連載「新・棚は生きている(6・7・8月合併号)

出版の原点から
日本出版クラブの被災地支援活動(その2)

青田恵一

(前回からつづく)

4 出版の原点を求めて 

 前回述べた支援策の背景には、出版人がみずからの仕事を、どう考えるか、いかにとらえ直すかという、いわば使命感に近い思いがあった。たとえば、日本出版クラブ副会長の相賀昌宏氏は、『出版クラブだより』2011年5月1日号にこう記している。 

  報道されたり残された事だけが歴史の真実かのように見られることが多くあります。しかしそれは部分でしかありません。そういった届きにくい声を、見過ごされやすい事実を残していくことも出版の責務だと思います。出来る限り客観的で、多元的視点を持った冷静な分析により、被災者の苦しみを静かに自分のものとし、そして新しい問いを提起しながら出版を通じて未来を創りたいと思います(「緊急アピール 出版対策本部の理念」)。 

 まず「届きにくい声を、見過ごされやすい事実を残していくことも出版の責務」と宣言したうえで、客観的、多元的、冷静という分析の3観点を持とうと問題提起、それを「新しい問いを提起」することにつなげ、未来を創ろうと呼び掛ける。

 ここはじっくり考えてみたい。客観的、多元的、冷静の反対は、主観的、一元的、興奮である。震災報道は、主観的、一元的、興奮状態の傾向になりやすい。むろん、そういう論旨のものもあっていい。だがややもすると、これが主流になっていく。論調が単一、あるいは極端な対立の基調に傾きがちになる。

 相賀氏の提言は、その事態を、客観的、多元的、冷静の3分析手法で乗り越え、いままでにない「新しい問い」、すなわち、クリエイティブな問題提起をしよう、と訴えるものである。換言するなら氏は、3・11を機に、被災者(=読者)の視点に立った、出版イノベーションを巻き起こそう、と提案しているのだ。

さらに相賀氏は、『出版クラブだより』2013年5月1日号で

 出版界という概念を、出版社以外の、本に係わるすべての人のために広げてみたい  と思う。読者も、書店も、運送会社も、図書館も、古書店も、ネット書店も、というように 

と述べ「永遠に手が届かないことなのかもしれないが」とつづけている。

 氏は、読者を中心に位置づけたうえで、業界三者だけでなく、著者、印刷会社、製本会社、それに加えて、文中の古書店やネット書店、あとこういう場合、めったに言及されない運送会社も含め、出版に関するすべての存在が、読者の生活や仕事、人生に貢献するため、進化していこうと叫んでいるように思われる。 

 2011年5月の全出版人大会で発表された声明も心を打つ(『出版クラブだより』2011年5月1日号)。 

 出版物は読む者の精神を鍛え、知性の分布を拡大する社会的資本です。そして読書という学びは、先賢の叡智を魂に取り込み、思考、経験のプロセスを経て人間の精神力をはぐくむ普遍的な価値です。

 ならば、ことばを扱う者、出版に携わる者の責務は自から明らかです。時がたち、人びとがふたたび笑顔を取り戻した時、忍耐と思いやりと勇気の記録と物語が数多く編まれなければなりません。

 また検証と提言も、活字として届けられなければなりません。被害を最小限にくい止める術はなかったのか? 被災した人びとの苦難をもっとやわらげる知恵はなかったのか? 

 ここには、「心のライフライン」ともいえる、本と出版の役割というものが、余すところなく書き込まれており、何度読んでも心を揺さぶられた。

 出版の営みには、「社会的資本」という社会の価値、「人間の精神力」という個人の価値というふたつの価値が並存する。つぎつぎ消費されていくマスメディア報道に対し、ふたつの価値を有する出版は「忍耐と思いやりと勇気の記録と物語」を創造し、歴史に残していくという機能を持つべき、というメッセージを発信する。

 さらに「検証と提言」に話は及び、時代と社会のビジョンづくりを出版が担うべきこともサジェストされている。時代の〝いま〟を考えるとき、出版こそが果たせる使命、ミッションに思いを致そう、と叫んでいるのである。

 これだけ出版の本質に迫るコメントは、そうはない。 

  2013年5月8日におこなわれた、同じく全出版人大会の宣言も胸に響く。まず3・11から現在までの状況を概観する。 

  一昨年の大会の頃、被災地では衣食住がままならない中、再開した書店で本や雑誌を買い求める人々の姿があり、私たちは、出版人としての使命感を新たにしました。そして昨年は、あの未曾有の惨禍を、自らの表現で作品にしようと苦闘する書き手たちに出会い、多くの成果を出版することが出来ました。日本の出版文化は、日本の伝統建築のようにしなやかで強い。しかし、そうした書き手と読み手をつなぐ出版業の土台が、今大きく揺さぶられています。 

 ついで、その土台を揺さぶっているデジタル技術の明暗を論じる。「デジタル技術が私たちの出版活動の新たなインフラになった」と示しつつも、そのマイナス面を以下のように危惧している。

  技術が万人に行き渡った結果、本や雑誌が、書き手や版元のあずかり知らぬところで膨大に複製され、転々と流布する事態も生じています。物事を処理するについて「できるだけ簡単に、速く、安く」を至上命題とするコンピュータの論理は、しばしば私たちの仕事を振り回します。 

 そのうえで、デジ懇(デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会)が打ち出した「知の拡大再生産」の意味に言及しながら、出版界が進むべき道をこう方向づける。 

 「知の拡大再生産」とは、すなわち出版物が継続して発行され、著者に正当な利益が還元され、未来の新しい著者が誕生し、新しい著作物が創造されることが保障される状況と言い換えてよいでしょう。今後もそれが保たれない限り、スムーズな利活用の仕組みなど作っても意味がないのです。

 この声明を起草した新潮社社長の佐藤隆信氏は、当大会での浅田次郎氏との対談で、「デジタルで出版の精神が病むこともある」と語った。つまり、出版物の継続発行、著者への正当な利益還元、未来の著者の誕生、新しい著作物の創造という4つの事柄が保持されなければ、デジタルは無意味ということを示したのだ。 

 前回の最後にご紹介した、講談社取締役の大竹深夫氏も、同じ文章で(『出版クラブだより』2013年3月1日号)、「『忘れない』をわすれない」というメッセージを掲げ、つぎのように提言している。 

  出版に携わる私たちは幸いにも、想像する力、他者を慮る力、寄り添う力、そして伝える力に長けていると思います。それがあればこそ読者に信頼される記事や本を作れているのではないでしょうか。

  そんな私たちにとっては、被災地の現状とそこに暮らす人々のことを想い、忘れずに、寄り添い、社会へ伝え続けていくことが使命なのではないでしょうか。〈忘れない!〉ということを被災地に暮らす人たちへ伝え続けていくことが何よりの支援であると信じます。 

 出版を含めたメディアの役割は、もちろん「伝える」ところにある。だがその根底に、想像(イマジネーション)、思いやり、寄り添う姿勢という3つが合わさった、いうなれば広い意味での「愛」がないと、被災者にせよ、読者にせよ、人間から信頼されるものにはならない、ということが、この一節で強く示唆されている。 

 これらの文章は、胸に刻まれるだけでなく、50年後、100年後の後世に残るべきものである。

 震災後、このように、出版の原点を振り返る、または見直す動きが明確になっている。こういう問題意識、哲学、思想といったものから、数々の支援施策は生まれたのであった。            

5 書店への期待 

 書店の役割に期待する声も出てきた。2013年、新年名刺交換会における、相賀昌宏氏の挨拶で、注目されるポイントがふたつあった。電子書籍と、電子書籍の普及で影響が出るかもしれない書店に関するものである。 

 電子書籍は、紙の本との相乗効果で、出版界に活気を与えるものとして期待していますが、大切なことは電子書籍の端末を使って読者が何を読みたいと思っているのかというニーズを見極めていくことだと思います。紙の本としては既に人の目に触れにくくなっているものも、電子化することで再び日の目を見られるようになります。書評とか全集の月報のように散逸しやすいものや単独で商品化しにくいものなど、電子書籍にすることで新たに人々が作品の面白さに気付くような魅力的な企画を考え出していくことが電子書籍の普及につながるのだと思います(『出版クラブだより』2013年1月1日号)。 

 「電子書籍にすることで新たに人々が作品の面白さに気付くような魅力的な企画」という点をどう具体化していくか。出版社だけではない、書店も取次会社も、電子書籍に挑もうという企業は、改めてこのことを、みずからに問わねばならない。 

つづいて氏は、書店が、電子書籍の普及やデジタル化への対策をいかに採るべきか――その方向性をこう示す。 

 デジタル化が進んでいってもやはり我々の仕事は書店が元気でないと成り立ちません。刊行情報を電子化して活用し、いろいろな本の情報を入手してお客様に薦め、そこから注文につなげることで書店の活性化に役立つようにしていくことも考えられます(同)。

ここでは

新刊情報の電子化
   ↓
多様な商品情報の把握
   ↓
多彩な読書ニーズを持つお客さまに対するお薦め
   ↓
提案機能の強化
   ↓
お客さまの購買につなげる 

という5つのステップを踏むことで、書店のプレゼンテーションの拡大が読者増大を呼び込み、書店業績の向上に寄与できるのではないか、と問題提起されている。

                               (次回につづく)

 
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