4月の新刊:発売中●出版メディアパル実務書
出版翻訳 プロの条件―
藤岡 啓介著
出版メディアパル・オンライン書店
英語には自信がある、留学もしている、大学で「翻訳ゼミ」にも参加した。そろそろ「出版翻訳」を手掛けてみたい、自分の好きな作家の作品を自分の手で翻訳するとは、いかにも楽しい、誇らしげではないか。 あなたがこう願ったときから、「良書」「版権」「企画書」「出版社」、そして「下訳・共訳」などの翻訳のあり方までが大きなハードルとなって目の前に立ちはだかります。いくら外国語ができても、翻訳はできません。 本書は、翻訳者を目指す方々のための「翻訳の周辺」「下訳・上訳、共訳の心得」「翻訳出版企画書の上手な書き方」「パラグラフの行数、漢字の字数」「文体」を解く翻訳玉手箱といえます。
読み返してみると、「企画書」の書き方を学ぼうとする読者にとって迷惑なほど英文が入っています。 第3部の「名作読み直し」にあるのはまだしも、「企画書作成」でディケンズまで読まされるのはかなわないと思われるでしょう。 理由があります。できるだけ一流作家の原文をとりあげて「実際例」を書こうと考えたのですが、引用して議論するに足りるだけの内容と分量となると、残念ながら著作権の問題があって軽々に利用できないのです。新刊書のカバーや推薦の言葉であれば宣伝資料ですから引用しても著作権に問題がないのですが、本文となるとひっかかります。 もうひとつ、これが筆者のほんとうの思惑なのですが、読者の皆さんに「出版翻訳企画書」を作成するのは容易なことではないぞ、しんどいぞ、と牽制したかったのです。 新刊を手にして、300頁、400頁もある内容を読み上げて「梗概」を作り、いくつかの章は自分の手で「翻訳」しなければならない。その文体はどうしよう、周辺知識は、語彙は、難解個所は、と悩ましい問題があります。 翻訳者に必要なのは、倦まず弛まず孜孜として勤しむ、ことです――古い言葉でご免なさい、でも、こういいたくなるほどうんざりする仕事なのです。ディケンズの『オリヴァー・ツゥイスト』を長々と引いていますが、この数頁を、全語・全文を先行訳に挑戦しながら、自分の力で納得できるほどに翻訳できれば、欧米の作家の文章に負けないでしょう。彼らはシェイクスピア、ディケンズを読んで育っているのです。 本書を書き上げてから、改めて新しい原書をと、”100 Selected Stories”(O. Henry, Wordsworth Classics)を買ったのですが、これが736頁あって、洋書の森の住人の皆さん! 驚くなかれ、たったの245円でした。翻訳は、すてきな稼業ですよ。 2011年1月 藤岡啓介記
発売予定:4月上旬 A5判・160ページ 定価:本体価格2,200円+税
<編集室だより> 出版メディアパル編集長 下村昭夫
東京都新宿区の神楽坂にある財団法人日本出版クラブの片隅で、今から4年前の2007年1月のこと、「洋書の森」という書架を並べたコーナーが誕生しました。藤岡さんは、その「洋書の森」の誕生に深く関わった翻訳者のお一人です。「洋書の森」には、日本での出版翻訳の権利がまだ確定していない、出版界で俗に言う「版権フリー」の洋書が常時展示されています。しかも毎月、欧米の新刊書を100冊前後補充されているとのことです。 この本は、永年、「出版翻訳」の世界で、多くの翻訳書を世に送り出してこられた藤岡さんが、若い翻訳者のためにそのノウハウを惜しみなく公開していただいた出版翻訳のための入門書です。 出版現場で、日夜、「出版翻訳」の翻訳で苦労されている翻訳者の皆さんに、お読みいただければ幸いです。
本テキストを利用しての日本出版クラブ主催のセミナー『出版翻訳 プロの条件』が4月16日より開講される。 詳細は日本出版クラブのWeb案内をご覧いただければ幸いです。 |