『出版メディアパルの書店・出版本とサイト紹介』青田恵一

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出版メディアパルの書店・出版本とサイト紹介

青田恵一

出版メディアパル・オンライン書店 

 出版メディアパルをご存じだろうか。 と聞いたらもう失礼に当たる。書店や出版に関する活発な出版活動で、いまやすっかり、おなじみの存在となり、その意表をつく、あるいは、スキマを埋める編集企画は、出版業界の耳目を集めている。 
 出版メディアパルの編集長は、工学書のオーム社で、長年、編集にたずさわった下村昭夫氏。現在、日本出版学会・出版流通研究部会の幹事役をこなしており、ここで知り合った人も多いかもしれない。下村氏は、オーム社を定年退職後、出版へのたぎる思いを断ち切れず、2003年4月に出版メディアパルを設立。10年間で50点の出版関連本の刊行を目指しスタートする。
 そのことを伺ったときは、われ知らず「すごい!」と絶句した。それはそうだろう。誰だって、そう聞けば、売れ行きが格別いいわけではないものを、そんなに出せるのか? テーマはそこまであるのか、いや、そもそも採算は合うのか、と疑問がつぎつぎ湧いてくるにちがいない。設立5年目となる2008年2月現在、書籍が20点、ビデオが1点。目標の40%である。
 達成に向け堅実に歩んでいるのだ。一昨年、神保町で設立3周年記念のパーティが催され、なんと主人公みずから進行役を務めた。もっとも、この成り行き、あまりに自然で、本誌編集長の清田義昭氏に指摘されるまで、そのおかしみに誰も気づかなかった。 
 参加者も、出版業界紙・誌の代表、著者、編集者、営業人、書店人、それも、業界を支えてきた重鎮、今後を担う若い世代と幅広く、かつご家族も同席という、人柄を感じさせるものだった。刊行された本も幅広い。まずはご本人の著書である。
 16枚のデータとグラフで出版産業を分析する『絵でみる出版産業』、現代出版の課題と解決策を展望する『出版ウォッチング』、編集のデジタル化、ネット書店、ダウンロードコンテンツの時代といった出版の将来イメージを探る『出版の近未来』、そして編集のイロハから高度な技術まで手取り足取り教示する『本づくりこれだけは(改訂新版)』などなど、健筆ぶりに終わりはなさそう。
 編集者だけあって作る本も、正統的な編集本が柱だが、加えて、「企画のたまご屋さん」を主宰する出版の仕掛け人、吉田浩氏の『7つの黄金ルールでだれでもベストセラーは出せる!』とか、また、橋本健午氏による『発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷―出版年表』とか、これまであまり手をつけられなかったテーマも数多い。編集者だから書店に関心が薄いかといえば、そんなことはまったくなく、書店本もまた少なくない。
 私と下村さんを結びつけたのは、書店の先達、もとオーム社書店の故・下村彦四郎氏といえる。おふたりは同じ苗字だがとくに血縁関係はなく、同じ社の先輩と後輩の仲。
 下村昭夫さんは、彦四郎氏の『棚の生理学』3部作を復刊したいと望んでいた。それを聞いた私は、過去に彦四郎氏に同じ話を進言した経緯もあり、一も二もなく賛成した。果たしてどれほど売れるだろうか、というかすかな不安を押し殺しながら…ではあったが。ともあれ、そんなこんなで復刊第1作は、3部作の最後の作品『棚の生理学』となった。
 出版メディアパルの書店本の歴史はここから始まる。この45年前の本が、なんと予想外の反響を呼び、近く重版するという。奇跡ともいえるこの結果は、ほかの2作品、『書店はどうすればよいのか』『書店の人と商品をどうするか』の続刊に、はずみをつける。

  当3部作については、拙著『棚は生きている 私の店から〝パピルスの夢〟を伝えたい』(青田コーポレーション発行 八潮出版社発売)に詳しく記しているので、ご参照いただきたい。
 その後、書店にからんだ本は、能勢仁著の新装版『本と読者をつなぐ知恵』や、「新文化」紙に3年間50回、連載された前田直子氏と集英社の大久保徹也氏の共著『ニューヨークの書店ガイド』、また、日本と同じ面と異なる面を併せ持つ韓国の出版状況を活写した『韓国の出版事情』、中国・台湾の出版界の、初めて解明された現状を描く『中国・台湾の出版事情』、そして『書店員の小出版社巡礼記』や、『書店員の新人読本』へもつながっていく。
 ホームページを拝見すると、書籍案内のコーナーがあり、現在は、高田信夫著『編集者のためのInDesign入門』や小島清孝著『書店員の小出版社巡礼記』、荒瀬光治著『編集デザイン入門』、ハーバート・S・ベイリーJr著で箕輪成男訳の『出版経営入門――その合理性と非合理性』、島崎英威著『中国・台湾の出版事情』などがラインナップされる。
 サイトの右側には、下村さんの代表講座「本づくりこれだけは」というような「講座・研究」コーナーがスペースを取る。左欄の「書籍案内」を上から見ていくと、まずあるのは「出版メディアパルシリーズ」や「出版学研究」といったシリーズもの。
 このうち「出版産業動向」には、書店をはじめ取次会社、出版社への長時間インタビューを敢行、多くの文献を当たって、日本の出版流通の歴史と現代、課題と展望を追った労作、2006年度・日本出版学会奨励賞受賞に輝く! 蔡星慧(チェソンヘ)著『出版産業の変遷と書籍出版流通』、新人女性編集者が先輩の指導のもと、1冊の本を作っていく過程をドラマ仕立てにしたビデオ版『本づくりこれだけは』ほかが紹介されている。

  ところで、出版メディアパルが07年秋に刊行した本に、東京堂書店にお勤めだった故小島清孝氏の遺作『書店員の小出版社巡礼記』がある。
 本書を読むと、なにより、こんな書店人がいたのか、という切々たる思いにとらわれる。店では、「創業まもない版元さん大集合」フェアを企画したり、写真ドキュメント『アウシュヴィッツ収容所』(グリーンピース出版会)発刊を機に、仕事を超えて、著者の青木進々氏とともに、アウシュヴィッツ展を開催したり、「アウシュヴィッツ平和博物館」(福島県白河市)の建設に力を尽くしたり、という生涯には、心底、胸を打たれた。

 詳しくは、影書房・松本昌次氏の筆による「〝小出版社を勇気づけた人」(p3)や、韓国語版の序文を書かれた翻訳者のパク・ジヒョン氏の文章に描かれている。
 パク・ジヒョン氏による紹介文の冒頭を引用する。「神田神保町にある東京堂書店は1880年代に設立された伝統ある書店で、特色のある品揃えで研究者や筆者たちの信望が厚い書店である。
 著者の小島清孝氏はその東京堂に1973年に入社し、30年以上勤めたベテランの書店員である。彼が人文書を担当した時期には、平凡だった書棚を主題別に分類し、社会問題になっていたエイズやハンセン病を扱ったコーナーを作るなど、時代的な流れに沿って書棚を変化させ、東京堂書店を特色のある書店とするのに大きな役割を果たした(p13)」本書は、そのような生き方を貫いた小島氏による小出版社論と、その版元さんなどから刊行された本の書評集だ。
 出版社の歴史や出版営業マンとの出会いをからませて批評される点が、いかにも書店人らしくて斬新に映る。ぜひともお読みいただきたいお薦めの本である。書店で働くことが、誇りに思える1冊!    
 右欄の「講座・研究」コーナーは、書店人を含む出版人にとり大いに有益となろう。「本づくりこれだけは」「本づくりこれだけはQ&A」「マルチメディアと出版の近未来」というテーマで、コンテンツや編集ノウハウを公開しているが、それだけではない。
 下村昭夫氏自身による「出版学研究ノート」コーナーは、出版に関する情報とデータが満載といってよい。「日本の出版産業の現状」には、出版物の推定販売金額や部数、新刊点数と金額、返品率などの数字情報、アメリカの出版や書店の事情、さらに日本のマスメディアの現状を、出版だけでなく、新聞、放送、インターネット、広告など総合的な観点から分析している。
 編集者のための著作権入門講座、「著作権の研究ノート」もはじまった。 さらにそのうえ、「新文化」や「毎日新聞」などに連載したコラム、圓光大学(韓国)の新聞放送学科で講義した記録「日本におけるインターネットの利用現状」も閲覧できる。
  「書店の本と読者」のコーナーには、恐縮ながら私の名前で「書店と本と読者」コーナーも作られている。拙著の『書店ルネッサンス』や『たたかう書店』『棚は生きている』(すべて青田コーポレーション発行 八潮出版社発売)は、このコーナーからでも注文できるし、ここにも在庫があるので即出荷も可能。また、私が推薦している出版メディアパル刊行の書店・出版本の紹介コラムも掲載中。合わせてご参照いただきたいと思う。
出版人必読のコーナーとしてご紹介しておく。