書評「新装版/ 棚の生理学」青田恵一のお勧めの一冊

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青田恵一のお勧めの一冊

下村彦四郎さんの『棚の生理学』が復刊された(!)

「新装版/ 棚の生理学」

下村 彦四郎 著

人件費をベースに考えた書店の動態的商品構成

出版メディアパル・オンライン書店

 下村彦四郎さんの『棚の生理学』が復刊された(!)

 書店実務のパイオニア作品といえば、皆さまはどの本を思い出すだろう? 私にとって、それは、1970年に、元オーム社書店の故下村彦四郎氏が著された『棚の生理学』である。長年絶版だったこの名著が、この度、出版メディアパルから復刊された。待望の一冊(!)。この本は、いままで問い合わせも多かったとのこと、待ちこがれていた方も少なからずおられよう。
 下村氏が仕事の合間をぬって精力的に書かれた本は3冊。『書店はどうすればよいのか』『書店の人と商品をどうするか』、そしてこの『棚の生理学』だ。すぐ入手できるという意味では、いまのところ、この本が唯一のものといってよい。
 では『棚の生理学』は、いったいどこがどう先駆といえるのか。私なりに思いを巡らせば、これは、書店の実務と経営を科学的に結びつけようとしたその一点にこそ見出せる。言い換えればこの本は、書店の店づくりを、読者本位の視点で描く業界初のテキストであったのだ。それにしても、いまから35年も前に、これほど緻密な「原理への追求」がなされていたとは。正直、驚きを禁じ得ない ――。

 とくに心を打つのは、何より知恵を大切にするスタンスであろう。この本の隅々には、著者が店頭で、ときに創意工夫し、あるいは熟慮し、そして生まれたノウハウが、それこそキラリと光っている。いま一部の書店では、読者をつなぐクリエイティブな仕事が、挑むことさえ容易でなくなった。その余裕がないのである。だが、下村彦四郎著の『棚の生理学』は問うにちがいない。それで本当にいいのだろうか?と。
 そのうえで、この本は、現場の書店人に、読者と商品への“思い”を定め、奮起するようにと迫るかもしれない。たしかにここからは、みずからの頭で考え、みずからの足で歩こうという氏の呼び掛けの声が聞こえてくる。
 その主張は、年代や定価といった数字、出来事さえ除いてしまえば、最近書かれたかのように“新鮮”にすら映る。専門書ジャンルが想定されていることも、ほとんど気にならない。
 構成は3部。第1部「3尺棚1段から昨日よりも1冊たくさん売ったら」、第2部「ラッシュ商法〈人海戦術からシステムへの変更〉」、第3部「書店の明日をめざして〈書店の未来像〉」、これに「初めて工学書を担当する人への手紙」という売場入門書と他の論文が加わる。
 第1部では、売上アップの基本を棚1段単位から発想しよう、第2部では、季節、時間、曜日、財布、天候、月別のそれぞれにおいてピーク対策を確立しよう、第3部では、専門の商品力を増客に結びつけようと訴えられ、その方法が提案される。ここには時代やジャンルを超えて変わらぬ「普遍性」が厳存する。具体的にいえば、機会損失に対するあくなき攻撃や膨大化する人件費への対応、なにより顧客満足と売上増大への執念 ――。
 一応、工学書という前提はあるものの、売れる売場の一般条件も挙げられている。①市場の需要に見合った商品を揃える。②欠本調査に熱意をこめ、補充日数の短縮のために全力を尽くす。③工学書の展示スペースを充分に取って品揃えを厚くする。さいごに、④優秀な棚担当者。
 これはもちろん、他のジャンルにも当てはまることだ。一見分かりきったようなこれらの原則も、みずからの店でどこまで貫かれているか、いっぺんチェックしてみたいもの。35年前、下村氏によって提起された問題は、まさにいま、店頭現場で解決する機会となって蘇る ――。投げられたボールをどこへ打てばいいか、それは私たちの課題となったのである。
 『棚の生理学』の序文は、あの布川角左衛門氏の筆になる。そのなかに意義深い引用があった。
「書物を書くのは、らくである。…書物を印刷に付するのは、それよりもむつかしい。…書物を読むのは、もっとむつかしい。…
しかし、この世に生きている人間の手がける仕事で、最もむつかしいのは、書物を売ることである」
 思い返せば、この本から真に学ぶべきは、失われつつある書店人としての誇りということなのかもしれない。
 (『棚は生きている』より 出版ニュース 2004年8月中旬号掲載)


申込先:〒272-0812 市川市若宮1-1-1 出版メディアパル
Tel&Fax:047-334-7094
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発行:2004年8月15日
本体価格:3,000円・296頁

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