書評「新装版/書店の人と商品をどうするか」青田恵一のお勧めの一冊

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青田恵一のお勧めの一冊

下村彦四郎さんの『棚の生理学』シリーズの原点(2)

「新装版/書店の人と商品をどうするか」

下村彦四郎 著

書店人の実践的書店論

出版メディアパル・オンライン書店

 種は植えられていた ―― よみがえる下村書店学

 故下村彦四郎氏による渾身のライフワーク、『棚の生理学』3部作が、ついに復刊した。『書店の人と商品をどうするか』はその第2弾であり、オリジナル版は1966年の刊行。
 これほど前に書かれた書店経営の本が揃って復刊されるのは、きわめて異例といってよい。出版に係わる仕事が、それだけ人間の営みとして、変わらぬものを持っているためだろうか。と同時に、著者の下村彦四郎さんが、すでにこの時代に、書店の経営と販売を突き詰めていたからでもあろう。
第1弾の『書店はどうすればよいのか』が書店の経営面にスポットを当てたのに対し、この本では販売面に焦点を合わせる。どちらかといえば、店頭の問題を扱っているのだ。おもなテーマは、MD(商品政策)、販促、ハード施設、外売、教育システム。

 MDでは、とくに商品構成が俎上に乗せられる。書店では、とかく商品管理のみが重んじられるが、それ以前に大切なのは商品構成ではないかと訴える。そしてこれを、絵を描くときのデッサンと彩色の関係になぞらえる。「デッサン(商品構成)がしっかり描けていないと、彩色(商品管理)のときにいくら技法を尽くして力んでみても、その絵は描く人の考えていた絵にはなかなか仕上がりません」。
 商品構成には、“ごはん”と“おかず”があるという例えもピッタリくる。“ごはん”とは、「主流出版物」であり、「ベストセラー(一般月刊誌)、学参・文庫・新書の一部、実用書の一部、辞書・辞典類」など。“おかず”はこれら以外を指す。ここで指摘されるのは、店によって“ごはん”のジャンルは共通でも、“おかず”は違うということ。この“おかず”ジャンルの選択と割合こそが、店の特長を作るものとなる。
 そうなると書店のタイプは、“ごはん”中心型書店と“おかず”中心型書店、そして“ごはん+おかず”型書店に分けられる。これらは、それぞれ、総合型、専門型、特化型の店づくりを示唆している。しかしこの時代に、すでに特化型書店が考察されていたとは…。21世紀に入りメガ・ブックセンターが激増しつつある。このようななか、既存店は突破口を探っているが、特化型はその有力な方向だ。これが、すでに60年代に検討されていたのである。
 つぎに販促面では、〈売れる〉よりも〈売る〉ことを意識しようと呼び掛ける。そしてこのひとつとして、「第二銘柄」の拡販を提案する。「第二銘柄」とは何だろうか? それは、必ずしも思い通りにならないベストセラーに対し、「仕入・販売面で操作ができ」「店の特色をいかんなく発揮でき」「販売高の優劣を決める大事な商品」である。店が指定する基本図書と考えてもよい。その基準として、年6回転以上の本、特定月に2回転以上するもの、他店が返品した新刊、季節商品などを挙げる。
 店舗施設というハード面では、照明の問題が中心になった。下村さんは、照明のポイントを「背表紙を明るくする」という点に置く。そして、店内と棚の明るいところに何を配するかということを軸に、照度を活かした陳列法や色彩を考慮した配列、また下の棚を明るくする方法、奥正面を明るくすべきことなどを吟味していく。さらに店の売上を決める導入面では、外から店頭を観察するようアドバイスする。とくに書店の顔であるウィンドーには、「適格なデザインとレイアウト」が欠かせないため、実際の通行人の反応で検証することも勧めている。
 そしてマネジメント面では、教育とリーダーシップの問題を扱う。教育問題では、新入社員の6ヵ月後教育を提言する。そうかと思えばリーダーシップでは、若い世代への働きかけを以下のように述べる。止められたら困るという疑念を捨てる、論理的に指示できるよう自己訓練する、若い世代の憧れに共鳴し理解しようと努める、一人前の社会人として認める訓練をする、整然としたコミュニケーション、給与体系の確立。これを読むと、いまと変わらない内容に、誰もがハッとするのではないか。
 この他、適正常備や外売の必要性、さらに、ICタグを先取りするかのようなタグカードの導入!についても、熱く論じられる。
 もとより、60年代の状況を前提とした著作ゆえ、現代に通じにくい点や時代の流れが異なるところも、まったく無い訳ではない。しかしとはいえ、読者の視点から、書店の経営に迫ろうとする鋭い提言から、学ぶべき点も数多い。一冊の本を売ることの原理原則は、時代によってそう変わるものではないからだ。もっとも、ここから先は、我々、残されたものの課題となるのかもしれない。
 40年の時を超え、よみがえった『棚の生理学』シリーズを通読すると、現代書店の抱えている問題が、すでに根元から追究されていることに気がつく。書店マーケティング、総合化の限界、専門化・特化型の可能性、定番欠本の撲滅など基本の再構築、書店と出版社の関係、外売、人材育成と人件費率の問題、中小書店の生きる道…。
 種は植えられていたのである。これを機に、この3冊の本から、問題のありかを、もう一度学んでもいいのではないだろうか。
 そのためにこそ、下村彦四郎さんは、静かにこう語りかける。
―― 他人は誰も助けてくれない、あなたのお店はあなた自身で対策を急がなくてはなりません。

 (『棚は生きている』より 出版ニュース 2005年1月上旬・中旬合併号掲載)


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発行:2004年12月10日
本体価格:2,800円・256頁

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