『校正のレッスン—活字との対話のために— 』 大西 寿男著

<6月の新刊:6月24日配本:発売中>

● 出版メディアパルNo.21

校正のレッスン—活字との対話のために—

大西 寿男著

出版メディアパル・オンライン書店

 私たちはいま、出版のデジタル化という大きな変革の時代に生きています。それは、たんに技術がコンピュータ化されただけではなく、また、電子書籍が実用化されてきただけでもありません。5000年にわたる本の歴史のなかで初めて、だれもが容易にじぶん自身の言葉を発信できるようになったのです。 

 たとえば、DTPの進化と普及は、家庭用のパソコンとプリンタで、美しく安価に文書を作成することを実現しました。印刷所しか持ちえなかった活字や写植文字を、デジタルフォントとして私たちが、ごくあたりまえに使えるようになりました。
 アナログ時代の出版は、草の根からの1人ひとりの自己表現というよりも、上から下へのマス・メディアを構築する情報システムが、大きな存在意義でした。
 しかし、21世紀を生きる私たちにとっては、出版はもっと広い姿としてイメージすることができます。インターネットを介してのブログや掲示板、mixiにTwitterなどのSNS、YouTubeにUstreamなどの動画配信は、もはや市民レベルの巨大なメディアです。
 私たちが日常的に、パソコンのワープロや表計算ソフトとプリンタを使って、会報やチラシ、名簿やダイレクトメール、事務文書、グリーティングカードや年賀状などを作成し配布する、これらはすべて、大きな意味での出版にあたります。1人ひとりが主体的に情報を発信するささやかな営みの積み重ねが、メディアそのものの姿を根底からゆさぶりつづけているのです。
 いま、私たちは「編集の時代」に生きているといえます。発信したい情報を、ただたんに無造作に垂れながすのではなく、表現をどう工夫すればより効果的か、さまざまにこころを砕きます。〝内容がホンモノであれば見た目を飾ることなど必要ない〟という牧歌的な発想は、過去のものとなりました。
 「編集の時代」とはまた、何かを発信したい人にとって、相手をじぶんのサイドにできるだけ多くとりこもうとする努力への傾倒でもあります。ですが、魅せ方がいくらじょうずになっても、それだけでは人は窒息してしまいます。なぜなら、情報を与える/与えられるの関係が一方的に、固定化されることになりますから。
 本書は、出版をめぐるこの劇的な変化の時代に、私たちはどんなふうに言葉とつきあえばいいのかを、「校正の現場」から提言します。
 校正の現場とは、言葉を発信する人とそれを受けとる人とのあいだに立ち、言葉そのものに寄り添いながら、「相手の言葉にどう耳を傾けるか」「じぶんはいったい、何を応えるのか」という、対話をうながし深める、実体験の場です。
 本書のレッスンを手がかりに、読者は、校正の実技を学ぶとともに、生きた言葉とどう対話するのかを身につけることができるでしょう。
 だれもが発言・発信できる、この稀有で冒険に満ちた時代にあって、言葉や自己表現のやりとりが、どうあれば一方的なものでなく、たがいにしあわせなものになりうるのか、その実践を「校正」という視点をとおしてかんじとっていただければ、と願ってやみません。
発売予定:6月上旬
A5判・128ページ
定価:本体価格1,200円+税


 <編集室だより>               
 大西寿男さんとの出会いは、2009年12月に創元社から発行された『校正のこころ』(大西寿男著)という1冊の本を通じてである。私は、その本を読んで深い感銘を受けた。2010年11月に大西さんは、日本出版学会の秋季研究発表会で「電子出版時代の“校正のこころ”」と題して講演された。所用で秋季研究発表会には、参加できなかった私は、その録音をお送りいただき、お話を拝聴した。再び、深い感銘を受けた。
 日本出版クラブ講座のサポートをさせていただいている関係上、2011年6月開催予定の「本づくり基礎講座」に大西さんにご講演をお願いし、合わせて初心者向けの“校正入門書”の執筆を依頼した。この本は、そうして生まれた本である。私が受けた“感銘=校正のこころ”を若い編集者・校正者にお伝え出来れば幸いである。

出版メディアパル編集長 下村昭夫