『出版産業の変遷と書籍出版流通』 蔡 星慧 著

■ 出版産業・出版流通実務書 
2012年1月発行

『出版産業の変遷と書籍出版流通』
―日本の書籍出版産業の構造的特質―<増補版>

蔡 星慧 著 

出版メディアパル・オンライン書店  

  本書は、2005年度の上智大学新聞学専攻博士後期課程における筆者の博士論文を修正し、追筆したものである。筆者が、日本の出版産業、とりわけ出版流通と書籍出版との相関性に関心を持つようになったのは、他国と違った日本型出版産業の特質に興味を持ったからである。
 雑誌中心の出版が成立してきた背景要因とは何か、書籍と雑誌の総合流通体制は合理性を持つといわれる一方で、書籍流通との適合性が議論されているのはなぜか、そのような問題意識から始まった研究である。研究のアプローチは、歴史的考察や理論的アプローチ以外に、現状考察を併行している。 


 今日の出版産業は近代・戦前の出版からの基盤から受け継がれており、歴史的変遷を辿るプロセスは必然的である。その上、現場の出版人に行った、出版社・取次・書店三者への直接インタビュー調査は、現状として認識している書籍出版の流通構造、課題を反映するためである。 
 本書は、第1章の本書の目的及び研究のアプローチ、第2章と第3章に分けて戦前と戦後の出版産業の変遷、第4章における欧米主要国と韓国の出版流通及び中小出版の可能性を、第5章を結論にした5章構成になる。なお、その上に、現状調査の分析結果の要約を付章として収録している。
 論文を準備している3年間、数多くの歴史的な文献から日本の出版の変遷を見る上で貴重な勉強になった。約1年間にわたった現状調査では、現場の出版人が日々向き合っている、あるいは長年身近で見てきた問題を考える機会にもなった。
 出版学の研究は地道に一歩一歩進んでいくプロセスの積み重ねであると思っている。方法論の工夫や長い時間の努力をかけた上でこそ、ようやく見えてくるものであろう。その過程において多くの方々の助けや指導をいただいた。至らない筆者を導いていただいた方々に感謝している。今後は、常に大学院での研究姿勢を心がけ、研究者の道を続けて生きたいと願っている。
 本書は留学生活の中で、出版研究の道に入って5年間が一つの転機を迎える契機になった。本書が、出版学を学ぶ人たちや出版現場で働く人々のお役に立てば幸いである。 
                2006年9月 蔡 星慧

主な目次:定価2520円(税込)・224頁
 第1章:出版産業の特質
 第2章:戦前の出版産業の変遷
 第3章:戦後の出版産業の変遷
 第4章:出版産業の課題と可能性
 第5章:出版産業の発展と展望
 付 章:日本の書籍出版産業の構造認識(現状調査)
 資料編:出版注年表・用語
 増 補:データで考える出版産業・出版流通の現状

 ◎ 編集室だより

 2006年5月に出版ジャーナリスト・舘野あきらさんと韓国出版学会の文ヨンジュさんのお二人の共著として、「韓国の出版事情」を発行した。6月には、ソウルブックフェアにも参加し、パジュ出版団地やソウルの書店事情も垣間見てき、韓国出版人会議の皆さんとの交流の機会も得ることができた。
 蔡星慧(チェ・ソンヘ)さんは、文ヨンジュさんの2年後輩で、上智大学の新聞学専攻博士課程で「出版学」をテーマに06年3月「博士号」を取得された韓国の留学生である。卒業後は、上智大学短期大学で「出版学」「新聞学」を教えておられる。
 2005年に中国の武漢で開かれた出版学会の「国際フォーラム」にも参加され、私のリポートを「韓国語」に翻訳していただいた友人である。蔡星慧さんの「研究成果」を多くの出版人と共有できたら幸いである。

出版メディアパル編集長/下村昭夫