『出版と自由ー周縁から見た出版産業』 長岡 義幸著

■ 出版産業研究ノート

出版と自由ー周縁から見た出版産業』

長岡 義幸著

出版メディアパル・オンライン書店 

出版というのは、特別な産業なのだろうか。簡略化すれば、書き手の成果物をメーカー(出版社)が製品化し、その商品を問屋(取次)が流通させ、小売店(新刊書店やコンビニエンスストア)が消費者(読者)に販売する、その一連の営みの総体を出版産業というのだろう。
 出版物は、あくまで製品であり商品だ。著者や編集者の意志はどうあれ、読者がその内容をどう解釈しようとも、問屋や小売店にとっては、売れるか売れないか、そのことこそがもっとも重要なことである。商行為としては、他の産業と何ら変わるところはない。
 では、他の製品・商品と出版物の違いは何なのだろうか。例外はあるだろうが、かたちになったモノそのものに価値があるというよりは、内容にこそ価値がある商品ということになるのかもしれない。モノ自体には、実用性はないということだ。
 そして、流通・販売業者、とりわけ取次は、出版物の内容そのものに関与せず、売れる売れないという価値判断に依拠して販売行為を成すことにより、内容にかかわる言論・出版・表現・流通の自由、あるいは読む自由の一端が保障されるという、ある種、逆説的な商品といえるのではないだろうか。たとえ小売店が店のカラーに応じて売りたくないと判断したとしても、流通が保証されている限り、出版の自由も読む自由も侵害されることはない。
 出版という営為に対する私なりの関心や問題意識を整理すれば、このふたつに収斂することができそうだ。本書で扱っているテーマは多岐にわたる。
 ときどきの出来事、聞き知ったことを『出版ニュース』(出版ニュース社)の月1回の連載「ブックストリート・流通」欄で取り上げ、意見表明をしてみたり、批評をしたり、疑義を呈してきたことの集積だ。
 基本的には、誰もが同じことを言いはじめたら、まずは疑ってみる。異なる主張に出合ったら、虚心に聞いてみる。確信があれば、強く主張する。持論が揺らいだら、素直に修正する――。
 その繰り返しの軌跡になっているはずだ。その根底には、出版産業の“まともな”発展を求め、出版の自由を確立したいという想いを込めていた。私の考える「出版と自由」に普遍性があるのかないのか、ぜひともみなさんに検討していただきたい。
 発売予定:3月上旬四六判・336ページ定価:本体価格2,400円+税

<編集室だより>                   出版メディアパル編集長 下村昭夫
 何時の頃からか。 気になる論客がいた。その人が長岡義幸さんである。恐らく、最初の主張は、長岡さんが『新文化』の取材記者だった頃の記事と思える。その後、長岡さんはインデペンデント記者と名乗り、フリーランスとして活躍し始めた。
 長岡さんには4冊の著書があるが、その集大成が最初の本『出版時評 長岡の意見1994~2002』(ポット出版)である。本書は、その後の2003年~2008年の出版産業の周縁をそのときどきの状況にあわせて描いたものである。
 タブーを恐れない「その見事な軌跡」に共感を覚える方も多いことであろう。反論もまた「歓迎」である。本書が出来上がったころ、長岡さんを交え、読者の皆さんと対話できるチャンスをぜひ創りたいと考えている。