Web連載「新棚は生きている=モデル店を見つけよう」青田恵一

Web連載「新棚は生きている=モデル店を見つけよう」

青田恵一

モデル店を見つけよう

―『理想の書店―

「お客さま第一」の旗を高く掲げて』をなぜ上梓したのか 

1 モデル店の必要性 

 以前、勤めていた店での話。
 新規店の商品構成や什器レイアウトを考えるとき、ある設定をおこなっていた。それは〝モデル店〟であった。といってもこの局面では「見本にすべき店」というほどの意味である。

 新しい店をつくるとき、当然だが、はじめに自分の仮説を、できるだけ具体的に立てておく。そのうえで、立地特性とかスペース、売場の形状を踏まえ、同じタイプの店を水準の高い店から探し出し、その店舗内外を徹底して調べ尽くすのである。

 入り口の状況、レジカウンターの位置から、動線の取り方、ジャンル構成、その特長、展開されている棚割り、販促活動、POP、什器の形状、アメニティなどのハード施設面までとことん洗うのだ(売上はお客さまの入り状況でだいたいつかめる)。 

 ついで調べたものを自分の仮説と照らし合わせる。モデル店の店全体から棚の1段、1段、棚割りの一つひとつまで比べるのだから、これはかなり参考になった。

 モデル店の数は多いにこしたことはないが、都心型立地になると、運がよくて1店あるかどうか…。とはいえ、このモデル店をなんとか見つけられるのと見つけられないのとでは、オープン前の準備や実際の業績に天地雲泥の差が出てくる。本当に!

 新規店はわかった。

 既存店はどうか。モデル店は要らないだろうか? 売上が伸びている間はとにかく、止まりはじめたら、まして下がりつつあるなら、モデル店の設定は、必須のアプローチとなるにちがいない。 

 私はなぜ『理想の書店』を書いたのか。

 一番強かったのは、現在、不振にあえぎ苦境に追い込まれている書店が、この本で紹介されたお店のなかから、目指すべき〝理想の書店〟――モデル店を見つけ出して欲しいという気持ちだった。ではそうなると、このモデル店をどう見つけるのか、それが問題として浮かび上がってくる。 

2 本書の構成 

その前に、本書の構成に触れておきたい。目次をざっとあげると 

第1章 「理想の書店」の店づくりを目指して
第2章「理想の書店」の多様性を追って――6年間のマイ・メモランダム
第3章 理想の書店――イハラ・ハートショップの戦い
第4章「理想の書店」のジャンルづくりに挑んで
となる。

 第1章で理想の書店の全体像を示し、第2章ではお店の理想を、様々な切り口から描き、第3章にはこの本にそもそも「理想の書店」と名づける切っ掛けになった書店、イハラ・ハートショップの文章を集めた。そして最後の第4章では、全国的にも非常に優れた、一流のジャンルの詳細を報告した。

3 店のあり様を決めるもの 

 店のあり様を決めるのは、店づくりの基本タイプ、立地、客層、スペース、競合などの要因である。「モデル店をいかに探すか」ということを考えるため、この辺りを簡単に述べておきたい。

 書店の基本タイプは3つある。総合書店、専門書店、特化型書店である。特化型とは「専門店ほどではないが、ジャンルなりテーマを強化すること(『理想の書店』p21)」である。このほかに、セレクトショップ型、他業種を組み込む複合型・融合型なども存在する。

立地について私は、おおまかに都心型、地域型、郊外型の3つにわける。ただし立地をとらえるとき、ミクロ的な位置ポジションも重要。駅に近いか、住宅地帯に近いか、両方に近いか、それとも両方から遠いかなどにより、客層とニーズ、お客さまの混み具合が微妙に異なってくる。

客層は性別年令別などの切り口でいくつかに分類できる。設定層として、ビジネスマン、若い女性客、若者層等々が考えられるが、総合書店の場合、総合客層というのが最大ポイントになろう

スペースは、一応、小規模、中規模、大規模、メガ・ブックセンターと4つをあげておく。

競合は、スペース一番店(リーダー)、二番店(チャレンジャー)、三番店以下(ニッチャー、フォロワー)にわけられる(カッコ内はマーケティング上の呼び方になる)。このポジション取りにより店舗政策の重点が変わっていく。 

4 モデル店の見つけ方 

どの店も、このような多彩な要因が交差するところに現存している。書店は、要因、状況が自店に近いモデル店を、この本から(あるいは出版業界紙・誌、雑誌、他の書籍、もちろん現実の書店からも)選んでいただきたいと思う。

 たとえばビジネス街の、ビジネスマン中心のお店が、30坪で競合店もあるというような場合、山下書店東銀座店がかっこうのモデル店となる。同店は35坪ではあるが、その店づくりの卓越さは、少なくとも200坪くらいまでの規模の店には、大いに刺激となるだろう。 

 書店を成り立たせる要因のなかで、とりわけ競合の問題は容易でない。

 しかしメガ・ブックセンターが主流となったこの時代、競合への対策なくして書店の成長はありえない。このとき店全体だけでなく、ジャンル単位で対処することも重要だ。各ジャンルが集まって、ひとつの店舗ができる以上、理想のジャンルをつくらずして理想の書店は成り立たない、ということになる。

 したがって、競合店が強いジャンルと弱いジャンル、自店の得意なジャンルと苦手なジャンル、この点の分析も不可欠である。この比較が競合店対策を方向づけていく。 

 そこで本書『理想の書店』では、9書店の9ジャンルを詳しくレポートした(頭についているのは、それぞれの売場を決定的に特長づけるキーワード)。それは 

棚の信頼――オリオン書房ノルテ店の教育書売場
真摯な奮闘――三省堂書店神保町本店の医学書売場
時代と併走――八重洲ブックセンター本店の建築書売場
未知への挑戦――紀伊國屋書店新宿南店の洋書売場
世界への窓口――ジュンク堂書店新宿店の語学書売場
〝京都シンフォニー〟の創出
 ――大垣書店イオンモールKYOTO店の旅行ガイド・地図・郷土本売場
伝道の精神――SHIBUYA TSUTAYAのコミック売場
革新の舞台――山下書店東銀座店の文庫売場
総力挑戦――有隣堂ヨドバシAKIBA店のコンピュータ書売場
の9売場である。

 この20年から30年、コミックスペースを大きく取る店が増えてきた。メガ・ブックセンターも例外ではない。その対抗策を練ろうとすれば、SHIBUYA TSUTAYAのコミック売場が、絶好のモデル売場となろう。

こんなふうに、同じジャンルから学べるものが多いのはいうまでもない。しかし、異なるジャンルから吸収できることも少なくない。懸命に努める売場には、特殊性とともに普遍性も表出してくる。汲みせど尽きぬものがそこには必ずある。これらの店にぜひ一度足を運び、売場を当たってみていただきたい。

 もっとも取材時から時間も経過しているため、レポートのとおりではないかもしれない。だが、書店人の「学びこころ」が裏切られることは、決してないはずである。 

5 ホリスティック研究者・大塚晃志郎氏の感想と著作『「治る力」の再発見 

 本書にはいろんな方から感想を寄せていただいた。そのなかから、ホリスティック研究者の大塚晃志郎氏が、フェイスブックに投稿された文章の一部を紹介したい(なお大塚氏がこの本を知ったのは、荻窪で寄港地を経営している元角川書店の江口正明氏が、やはりフェイスブックで案内してくださったからである)。 

 「理想の書店」、江口さんのFBをきっかけに注文して、読んでいます。こういう足で取材して、自分の正直な観察眼で、こだわりをもって、エネルギーを注いで。本当に自分の手で原稿を書いている本は、たとえ、部数はすごく出なくても、本としての本来の存在感を堂々と示しているようで、思わず、拍手です。いい本です。

 (中略)

 こだわった、思いと情熱のある本、いいですね(中略)。苦しんだ原稿ほど、読む側はいっきょに読めたりして。不思議なものですね。いい本をご紹介いただき、あらためて、本物の本というものの原点を思い出させてもらいました。感謝です。 

 いうまでもなくこの本は、これほどの評価に値するものでは決してない。だが今後への叱咤激励と受け取り、心を入れ替えて少しでも精進したいと思う。

 付記するなら、大塚晃志郎氏が著された『「治る力」の再発見』(日本教文社)は、「人間には自然治癒力が備わっている」という観点から、患者を大切にしない現代医療に切り込む名著である。切実なテーマの割りに読みやすく、スラスラと一気に読了した。

 以下のような鋭い指摘からは、学ぶものも少なくなかった。拙著の使い方という筋から離れて恐縮ではあるが、胸を打たれたいくつかの文章を引用しておきたい。 

  気血(体内をめぐる生命エネルギーと血液)の流れがバランスよくスムーズに生命体の全身をくまなく循環すれば、病は自然に消滅する。また、そのような状態を保つなら、病はおこらないことになる(p119)。 

内容を吟味した、体質に合わせた小食で、本当にきれいな血液をつくり、徐々に体の毒素を排出していく(p136)。 

 その国その風土に古来よりある、昔ながらの伝統食を食べるのが一番よいのである。日本の場合、その風土からとれた穀物――米、麦、あわ、きび、ひえといった穀物を主食とし、副食に野菜、海藻、豆類といったものを常食することである(p149~150)。 

 西洋医学の利点を生かしながら、日本をはじめ、中国、インドなど、各国の伝統医学、心理療法、自然療法、栄養療法、食餌(しょくじ)療法、運動療法、民間療法などの種々の療法を総合的、体系的に組み合わせて、最も適切な治療を行う(p168)。 

 この辺を読むと、同書が健康と医学の観点から、「生活改革を訴える警世の書」でもあることがわかってくる。その独自の知見は、あまたの免疫論を書き継いできた医学博士、安保徹氏の論旨と響き合っていることから、大塚氏を〝第2の安保さん〟と呼んでいいかもしれない。そう考えると、大塚氏の本をもっともっと読みたい気がしてきた。安保氏同様、大塚氏には新しい本をさらに書いて欲しいし、その刊行に向け、生命と人間に関心を持つ出版社は、ぜひとも手をあげていただきたいと思う。

 大塚氏のもうひとつの本『きっと、治る』(PHP研究所 品切れ)には、がんになったときの心構えの章もある。こちらもご一読をお薦めしたい。 

6 まとめ 

 本書『理想の書店』には、河出書房新社の会長、若森繁男氏から、以下のような推薦の言葉を頂戴した。 

「惚れて仕入れて、惚れて売る」の原点を示す!

 出版の低迷は、出版界が「惚れて仕入れて、惚れて売る」という原点を忘れかけていることが要因だ。こだわりの販売は必ず読者に伝わる。本書は、その原点が何であるかを明らかにするだろう。

 またこの本は、著者が理想の書店像を求めつつ、全国を取材して見出した、生き残りノウハウを凝縮した書でもある。出版営業担当者・取次人も、本書を読みぜひ勉強してもらいたい。書店好きな一般読者にも、充分楽しんでいただける内容になっている。 

 もちろん、それほどまでの内容には至っていないが、それでも書きながら、これだけはと思ったことがある。この本に素晴らしさがあるとするなら、まさしく、この本に掲載させていただいた書店、またそこで働く書店人の仕事が素晴らしいということにほかならない。