Web連載3月号「山本隆樹氏、出版流通の変革を大いに論ず(その2)青田恵一 |
●Web連載「新・棚は生きている(3月号) 4 山本隆樹さん、取次会社に呼び掛ける 山本さんは、古巣を含めた取次会社にこう提案する。 雑誌と書籍の売上構成比は、しだいに雑誌比率が下がりつつある。 5 山本隆樹さん、書店に呼び掛ける 書店をこよなく愛する山本さんは、その愛ゆえに書店に対しても厳しく叱咤する。以下はその要旨である。 毎年、書店は減少しているが、出版流通の関係者が心配するほど、読者は本の入手に困っていない。本の入手方法や選択肢は多岐に渡るからである。書店はこの現実を、冷徹に見据えないといけない。 このことを前提に、まずは出店とマーケティングのテーマから。 ともあれ、出店の際のマーケティングには、しっかり取り組んでほしい。新規店への投資金額は、10年前までは5年で回収できたが、先ほども触れたように、いまはもう10年でも回収できなくなっている。 つぎにネット書店の影響について。 読者がネット書店を利用する最大の理由は、書名や著者で、居ながらにして本の検索ができることと、書店までわざわざ出向く必要がないことである。これからは、自宅や職場までの配送料無料の継続可能なネット書店が勝ち組となるだろう。 このたび、アマゾンがはじめて日本の売上(2012年度)を発表した。それによると日本円にして約7300億円だそうである。そのうち、出版物・CD・DVDの売上は約2920億円と4割を占める。もっとも出版物だけの売上は不明。出版物は、日本出版販売、大阪屋、日教販などの取次会社からの仕入れと、出版社約1500社からの直接仕入れと両方がある。いずれにせよ日本国内の書店ランクは、1位アマゾン、2位TSUTAYA、3位紀伊國屋書店となり、この順位は当分変わらないものと思われる。 リアル書店の未来は、その書店の規模によっても様々である。大手以外の書店は、その利便性からいってネット書店に歯が立ちにくい面があり、原点に戻って、地域読者の要求に応えられる施策を確立、実行することが求められている。 ついで書店存続のコンセプトを検討する。 苦しいのは充分にわかっているが、従業員(できるだけ社員)を、もうちょっとだけ増やせないだろうか。増やしてなにをするのか、といえば、従業員ひとり当たり200人の顧客を作るのである。まずはお客さまの名前を覚えることからはじめよう。「きめ細かい接客」は現代書店の課題だが、名前さえ知っていれば、あとの接客サービスは自然に良くなるはずだ。これこそが真の「地域密着化」と考える。 MD(商品政策)の要点は、まずは死に筋を減らすことである。「書店は書籍仕入の8割で売上が決まる」といわれている。このことは、出版社への呼び掛けのところでも述べたが、自店に合わない商品は、新たなものと入れ替えなくてはならない。 書店の複合化が進んでいる。これは、日本の小売業のなかで、書店は、商品販売の効率性を示す指標――交叉比率が一番低いからである。といって、出版物以外の物販商品には、いまのところ決め手の業種がなく、バラバラの状況といってよい。当面、個別の店ごと、チェーンごとに、決め手業種の発見に向け模索をつづけるしかない。 店員教育ができていない書店が多数ある。低い利益率からパート・アルバイトしか採用できないことはよくわかるが、書店の売場がかなり乱れがちなのも気になる。人材こそ肝要。教育体制をしっかり整えないといけない。 独立店もチェーン店も大事なのは、後継者の問題である。みずから挑戦、構築、継続し発展させてきた事業を、だれに引き継げばいいのか。以前は跡継ぎを、他の店に武者修行に出した。現在は、それを受け入れられる店が減少しつつある。いまこそ自力で、人材を養成しなくてはならないときだ。 書店は、読みたくても読めない人からの注文を受けつける仕組みを構築し、埋もれた顧客の獲得を実現する方策を考えていけば、まだ生き残り策はある。それは断言できると思う。 6 山本隆樹さん、出版業界全体に呼び掛ける そして最後に、山本さんは出版業界全体に、こう呼び掛ける。 電子書籍業界がなにをいおうが、当面、活字ビジネスの主流はこれからも紙であることは間違いない。人口減少やメディアの多様化で出版物の流通量は少しずつ減ってはいくが、出版というパッケージメディアの信頼性はそう簡単になくならない。これからはむしろ、出版における情報の価値が試される正念場と考える。 前にみたように、老人化率が25%を超えた地方都市は、少子化と人口流出で限界集落が市町村まで拡大し、消費人口が減っている。そのため書店経営は、さらに厳しくなると予想される。書店数は1万店まで減数するが、そのなかで生き残るのはどんな経営スタイルだろうか。そうも思うが、どんな経営スタイルでも、地域読者のニーズに沿った、仕入能力を備えている書店のみが生き残るのは確かなことであろう。 ここまで、出版界の007――山本隆樹さんの思い、見解、哲学といったものを紹介してきた。最後の疑問。山本さんは、なぜこうまで情報通になれたのか。 |