web連載「棚は生きている」(番外編)
書店は〝街のオアシス〟である―「小売業としての書店」を目指して(番外編)

青田恵一

書店に未来はあるのだろうか?

仙台の書店は復活した――丸善仙台アエル店&あゆみブックス仙台店

 もし身近に、かつてない規模の地震と津波が襲って来たら、ましてそれに放射能さえ加わったら、自分ならどうするか。私なら、迷わず即、避難するにちがいない。事態が落ち着いたあとでも、はたして現地にすぐ戻るかどうか自信はない。こう想像したうえで、被災地の書店を考えれば、そこで戦うお店は、なんという奇跡を演じているのか、と目を見張らざるを得ない。

書店はまた元気に歩みはじめていた――。

 昨2011年3月11日、突如起こった東日本大震災から3ヶ月ほど経ったある日、弟と妹たち、その家族と義理の母が住む宮城県の仙台市と、故郷の福島県相馬市を訪れ、書店を見て歩いた。
仙台駅を出るとすぐ、街や店内のそこかしこに、「がんばろう東北」「がんばろう仙台」といった、横断幕やポスターが張られているのが、目についた。
 訪れたお店は、仙台市では、あゆみブックス仙台店、同仙台青葉通り店、 金港堂本店、ジュンク堂書店仙台ロフト店、 TSUTAYA仙台駅前店、八文字屋書店、ブックスみやぎ、 丸善仙台アエル店の8店舗である(相馬市では、高校時代に教科書や学参書を求めた丁子屋書店と広文堂書店の2店、それに大型の複合店、文芸堂書店相馬店に行った)。

 どの書店も、受けた打撃の大きさは、奮迅の努力の奥に潜められ、店舗イメージは、被災したと感じさせないまでに回復していた。むしろ、以前に来たときと、あまり変わらないことに、静かな驚きを覚えたといってもよい。
 回ったお店のうち、仙台駅周辺の2書店、丸善仙台アエル店とあゆみブックス仙台店の様子を、当時のメモを参照しながら、企画を中心にご紹介したい。
 
丸善仙台アエル店

 どの店でも、企画テーマで際立っていたのは、いうまでもなく東日本大震災であった。このテーマには、地震をはじめ、津波、原発問題、サバイバル、生活防衛までが射程に入っていた。
丸善の仙台アエル店は、入り口近くの 大テーブルに、これらの関連書――雑誌とその特集号、フィクションとノンフィクション、一般書と専門書など――を全ジャンルから総結集し、大規模に展開していただけに、最も迫力を感じた。そのほかにも、関係コーナーを、雑誌、人文など、可能なすべての売場に設置していた。攻めの姿勢がストレートに伝わってくる対処である。
ということは、関係する商品の多面展示がいくつもあったから、震災本への対応は、フェアだけでなく、コーナー、単品の3レベルで、立体的に、ダイナミックにおこなわれていたことになる。
 コーナー組みの代表が、心理学の平台で展開する、「震災で傷ついた心に寄りそう PTDS トラウマ 喪失感 悲嘆学」コーナーだった。ここは、PTDS(心的外傷後ストレス障害)がらみの専門書が中心で、坂口幸弘著『悲嘆学入門』(昭和堂)、若林一美著『死別の悲しみを超えて』(岩波現代文庫)、そして、キューブラー・ロス/デーヴィッド・ケスラー著『永遠の別れ』(日本教文社)、エリザベス・キューブラー・ロス著『子どもと死について』(中公文庫)などが並ぶ。平台におけるセレクトショップという印象。

 単品販売の意欲も高い。吉村昭著『三陸海岸大津波』(文春文庫)はミニテーブルで拡販中。そのおかげだろうか、文庫ランキングで第4位の売れ行きである。ランキングといえば、ノンフィクション部門の1位と3位を、河北新報社の震災写真集が占める。さらに新書でも、ベスト1が、武田邦彦著『原発大崩壊!』(ベスト新書)、ベスト2が、池上彰著『先送りできない日本』(角川oneテーマ21)であった。
 これら以外にも、単品の拡販例は枚挙に暇がない。新刊の清水香著『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)と、生活設計塾クルー・ダイヤモンド社編『災害時絶対に知っておくべき「お金」と「保険」の知識』(同)といった災害保険本のほか、2008年刊の、アル・シーバート著『凹まない人の秘密』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が、「凹んで入られない」というPOPを掲げ(!)、キャンペーンされていた。

あゆみブックス仙台店

 あゆみブックス仙台店の企画組みも目を引いた。
店に入って少し歩いた辺りで、「本で辿る宮城の記憶 今こそ覚えておきたい原作本」というキャッチのもと「仙台復興フェア」を開催中。宮城県にゆかりある著者の文庫が中心で、佐伯一麦著『鉄塔家族(上下)』(朝日文庫)、伊坂幸太郎著『ゴールデンスランバー』(新潮文庫)、熊谷達也著『邂逅の森』(文春文庫)などに加え、伊達政宗の生涯を描いた、司馬遼太郎著『馬上少年過ぐ』(新潮文庫)も揃えられている(すぐそばの柱前を利用して「児玉清が愛した50冊」特設コーナーあり)。
人文では「震災以後を生きるための50冊」というタイトルで、コーナー組み。どんな本が選ばれているのか、と目を向けると

 磯前順一著『喪失とノスタルジア』(みすず書房)、村上靖彦著『治癒の現象学』(講談社選書メチエ)、安克昌著『心の傷を癒すということ』(角川ソフィア文庫)、山岸俊男著『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』(集英社インターナショナル)、吉原直樹著『コミュニティ・スタディーズ』(作品社)、エドワード・W.サイード著『故国喪失についての省察(1・2)』(みすず書房)、ハンス・ヨナス著『責任という原理』(東信堂)

などが中心であった。
社会のほうでも

 『シリーズ 災害と社会』(弘文堂)、田中優著『原発に頼らない社会へ』(武田ランダムハウスジャパン)、東京大学社会科学研究所編『希望学(全4巻)』(東京大学出版会)、土岐憲三・河田恵昭・林春男監修/メモリアル・コンファレンス・イン神戸編著『12歳からの被災者学』(NHK出版)、松本健一著『海岸線の歴史』(ミシマ社)、メアリー・マイシオ著『チェルノブイリの森』(NHK出版)
等々が展開中。
 先鋭的でありながら、どこか均衡の取れたラインナップで、新旧東西、取り混ぜたこの選書は、胸に響いた。
刮目(かつもく)すべきは、人文、社会系の平積みのほとんどが、震災関係書であったことだ。「この際そうしよう」だったか、それとも、売れ筋を追ったら自然こうなったのか。いずれにせよ、書店のミッションを感じさせる仕事が、ここにある――そう思わされた。
 
 多彩なフェア企画を、エレベータ前の要所に集中させている、ジュンク堂書店仙台ロフト店を含め、 回ったほぼすべての店が、なんらかの形で、大震災・原発・復興のコーナーやフェアに取り組んでいたのは、前述の通りである。どの店も、3・11を経て、提案力が一段と強化されたように感じ取れた。
 こんなふうに、書店を巡りながら感じ取れたことは、事前に予感したものと、言葉としては大きくちがわなかった。圧倒的にちがっていたのは、その程度である。3・11のテーマは、予想を遥かに超えて、活発で力強く、また生命感に満ちて展開されているようにみえた。  
 誤解を恐れず申せば、これから全国の書店は、被災地の書店に習って、もっと大胆に、もっと極端に、もっと  もっと過激に、事を進めねばならないのではないか、と想った。顧客のニーズに徹底して合わせること、店の主張を全面的に繰り出すこと、渾身の力で進化していくこと、これらの事柄についてである。

 
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