『中国・台湾の出版事情-知られざる中国と台湾の出版流通・出版事情を満載-』島崎 英威著

 ■ 出版学研究ノート  

『中国・台湾の出版事情』

-知られざる中国と台湾の出版流通・出版事情を満載-

島 崎 英 威 著

出版メディアパル・オンライン書店  

 中国の出版状況は非常に特殊です。よく考えると「中国」は、古代からこの方「選挙」をしたことがない特殊な地域です。同様に「出版の自由」が今もない超特殊な国です。
 中国の長い歴史の中で、恐らく最も出版が自由であったのは、辛亥革命から1945年の間だったのではないかと思っています。つまり国民党も地方軍閥も共産党も中途半端で、中央政府が実質上存在しない時代です。
 中国は中央政府ができると途端に出版の自由がなくなる地域だったと思っています。昔よりは余程良くなっているとはいえ、現在でも理由は説明されず、廃刊・停刊は中国共産党中央宣伝部の手によって自由に処理されています。しかし昔と異なるのは廃刊・停刊させられた人々は大声を上げて叫んでいます。この声に賛意を表する中国共産党の元高級幹部が何人もいます。出版から見た中国は今ようやく近代化の初期過程を通過しているように見えます。
 日本人の眼から見ると、未だにこんな状況なのと思われるでしょう。しかし私たちの国も、ほんの60~70年前は同じような状況でした。中国の出版事情は東アジア全体の問題として考えなければならないでしょう。
 中国の出版界には、573社の出版社があります。台湾ですら登記されている出版社の数は5000以上はあります。すごく少ないのです。 
 中国と台湾、同じ民族でありながら異なる道を歩もうとしています。台湾は中華民国と称していましたが、現在は「正名」運動が起きていて、国営企業などから中国の名前を消して「台湾」に変える傾向が顕著になっています。台湾の中国離れが進むのでしょうか。 
 このような現状なかで中国の出版と台湾の出版を書きました。1980年代までは台湾の出版界も中国同様に出版の自由が制限されていました。しかし、国民党支配を脱却してから、台湾は民主化への道を歩み始め、出版の自由が確保されています。
 一方、中国は改革開放の道を歩んではいますが、出版言論分野では「自由」とは相当距離を置いています。出版の自由が制限されている中国と出版の自由が確保され始めた台湾とは、どのように異なるのか、出版界・読者の置かれている立場がどう異なるのかを検証する意味も含めてこの本を纏めました。
 巨大な中国の出版界の光と影、小さな台湾の出版界の表と裏を書いたつもりです。
本体価格:1800円・132頁

 ◎ 編集室だより

2006年5月に「韓国の出版事情」を発行したのに、引き続いて「中国・台湾の出版事情」を発行いたしました。同じ東アジアに属するといっても、お国柄の違いで、こんなにも出版事情が異なるのかと思うほど、「衝撃的なレポート」の連続にビックリです。出版流通の最前線で活躍される方々のお役に立てば幸いです。

出版メディアパル編集長/下村昭夫