『本づくりのKITCHEN厨房から-編集の技に挑んだエッセイ集-』秋田 公士著

■ 編集入門ノート

『本づくりのKITCHEN厨房から-編集の技に挑んだエッセイ集-』

秋田 公士著

出版メディアパル・オンライン書店
 

 この本のオリジナル版は、2003年4月、秋田印刷工房出版部なるバーチャル出版社の名の下に私家版として刊行したものです。何十年も人様の本を作り続けてきたのですから、一冊ぐらい自分の本を作っても罪にはなるまいと、軽い気持で作り上げました。私家版に「希望小売価格」を付けてはみたものの、もとより売るつもりなどなく、古くからの知人・友人に配るのが目的だったのです。
 娘・朋子が描いてくれたカバーの絵の雰囲気に惹かれて読んでくれた人もいたようです。そんな本を「市販したい」とのお話があり、出版メディアパルの下村さんの夢に私の夢を重ねて本書を発行することになりました。 さて、烈しい技術革新の時代にあって、私家版を出した直後から今日までの二年間には、いろいろな変化がありました。ワープロ専用機が姿を消してパソコンの時代になり、インターネットは誰もが利用するツールとなりました。
 冒頭に記した「フロッピー」も、今や消え去ろうとしています。しかし、書籍の組版・印刷の視点からすれば、次の二つが最大の変化といえるでしょう。一つは、それまでわずかに命脈を保っていた活字組版・活版印刷が完全に姿を消したことです。もう一つの変化は、「安かろう悪かろう」の典型のようにいわれ続けてきたDTPが、この間にようやく市民権を得て、むしろ組版の主流になったということです。
 これから出版社に就職する若い人たちは、いきなりDTPとつきあうことになるでしょう。そして、「なんか変だな」と思うような組版に出合うかも知れません。そんなとき、上司から「DTPだからね、こんなもんだよ」といわれても、決して納得しないでいただきたいのです。DTPには大きな可能性があります。
 個人でも、製作プロダクションでも、従業員数名の小さな組版屋さんでも、センスと技術で大手印刷会社の組版部門に対抗できるのです。 こと組版に関してなら「いつかは精興社を越えてやる!」そんな夢を持つあなたに、本書を捧げます。

 ◎本書の主な目次
フロッピーをめぐる思惑/ぶら下がりのすすめ/メニューのないレストラン/ポイントの話/小尾俊人氏の「製作の現場から」/白いページは好きですか?/人もすなるDTPなるものを我も/日本語大博物館見学の記/帯の命は短くて/枡目の呪縛から解脱せよ/網にかかった人々/寝るより楽になかりけり/そして読書は・・・?/学内から始めるネット出版/Eメールによる<手紙の時代>/あなたの宝を洞窟へ/活版時代の文字コード/電子出版物は生き残れるか/不思議なことば「本が好き」/鈴木さんちのつとむ君/さまよえるDTP/甍の波と文字の列/和文書体のベースライン/フロッピーの中を見てみよう/西谷氏の本を叩き台に/わが原風景の上海裏通り/人生いろいろ、編集者もいろいろ/文字体系とデジタルデバイド/四六とB6どちらがお好き/デジタル世界の職人たち

四六判・152頁・定価1575円(5月下旬配本)

◎ 編集室便り

この本は、本文の組版はもちろんのこと、装幀・帯のデザインに至るまで、すべてが本書の著者でもあり、編集者でもある秋田公士さんの手により生み出された本である。そして帯文には「本が好き、本づくりはもっと好き、だから、こだわる」と秋田さんの本への想いとメッセージが書かれている。

出版メディアパル編集長/下村昭夫