日本出版学会

出版流通研究部会の報告より

発表要旨(2010年1月19日)

 

 出版流通研究部会は1月19日、東京・千代田区の八木書店6階で星野渉会員が「激変する出版流通――2010年を展望する」をテーマに発表を行った。
 2009年に起きた大日本印刷による書店グループ化や、大手出版社によるブックオフへの出資といった、これまでの出版産業の枠組みを超える再編などの新たな動きの背景と、行き詰まっている「委託制度」を見直す「責任販売制」といった試みについての見解を報告。
 さらに、広告の不振という追い打ちをかけられた出版社が本格的に取り組み始めた雑誌のデジタル化に向けた動きとその課題、そして、グーグルブック検索や、国立国会図書館のデジタル図書館化構想、アマゾン「キンドル」の成功などで現実味を帯びてきた書籍のデジタル化について、国内外の事例をもとに分析した。 

「激変する出版流通―2010年を展望する」

星野 渉

1.デジタル化の進展=情報伝達基盤の変化

 2009年は、出版物や新聞など活字メディアのデジタル化がいっそう進行した年として記憶されることであろう。

(ⅰ)雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムの設立

先ずは、新しい団体として、「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」が設立され、新しいビジネスモデルを業界して模索し始めました。これは、08年秋に開かれたアジア太平洋デジタル雑誌国際会議を契機に雑誌メディアのデジタル化は避けられないと研究を重ねてきた業界の意気込みを感じ取ることが出来る。

(ⅱ)Googleブック検索訴訟和解問題

 二つ目には、09年の幕開けから、出版業界を激震させたGoogleブック訴訟問題が挙げられる。
 11月に入って、結果的には「英語圏のみを対象とする」との修正案で一段落ついたように思えるが、その動きに触発されて、国立国会図書館の蔵書を電子化する補正予算が127億円つき、国立国会図書館で電子化された所蔵資料を一般家庭からも利用できるようにするため事業モデルの構築に向け「日本書籍検索制度協議会」が発足するなど進んでいなかった日本の書籍のデジタル化を促進した意味で、大きな遺産を業界の中に残したといえる。

(ⅳ)アマゾン「Kindle」の発売

 11月に入って、日本でもアマゾンの「Kindle」が購入できるようになり、出版業界でもにわかに関心が高まってきたが、日本語対応に時期など不確定な要素もある。アップルの「iPhone」などの動きも重なり、書籍のデジタル化が、現実味を帯びてきたと言える。
 2010年に入り、講談社や小学館、新潮社、筑摩書房など主要出版社21社は、電子書籍市場のさまざまな問題に対応するため、「一般社団法人日本電子書籍出版社協会」を設立した。

(2)業界再編=デジタル化のもたらす産業構造変化

 09年は、デジタル化をキーワードに業界の産業構造が変化してきた年とも言える。

(ⅰ)大日本印刷のグループ化

 09年は、なんといても大日本印刷を中心とした業界再編の動きが話題になった年である。
 大日本印刷は、図書館流通センター、丸善の引き続きジュンク堂書店の過半数の株式を取得。ジュンク堂書店が文教堂に出資することで、大日本グループの出版物の売り上げは、業界の10%を上回る規模になった。さらには、2010年に入り、3社の経営統合も発表された。

(ⅱ)ブックオフへの出資

また、講談社、小学館、集英社、大日本印刷グループ6社の業界が敵視してきたブックオフへの投資は業界を震撼させた。その真意を問う声がいっせいに書店をはじめ流通業界から相次いだ。6社は、万引き問題、著者への還元方法などについて、ブックオフ側と協議を始めた。

日本インフラセンターが中古・新刊併売を検討する委員会を設置、一ツ橋グループの昭和図書が「不正返品」はないとの調査結果を発表。ブックオフが、初めて名古屋に新刊を扱う流水書房を併設する形で複合店を開店するなど。新刊と中古との共存を目指し動きが活発化してきた。

(3)取引制度改革=出版産業の基盤である取引制度の変化

(ⅰ)責任販売制

 小学館は、08年の『ホームメディカ』に引き続いて責任販売・通常条件併売の企画を相次いでは刊行、講談社は時限再販による責任販売を実施、筑摩書房など8社は、書店マージン35%、返品入帳35%の「35ブックス」を実施するなど、業界内に責任販売制(“計画販売制”)への移行を模索する動きが活発になってきた。

(ⅱ)ポイントサービス

 早稲田大学生協がアマゾンコムと共同で“ギフトサービス”を開始、学生やOBに対して最高8%の割引を実施、出版社などから懸念の声が上がった。
 また、これまで慎重だった紀伊國屋書店でも“ポイントサービス”を開始した。

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 09年の売り上げが21年ぶりに2兆円を割り込む中、明るい話題としては、村上春樹さんの『1Q84』が224万部(12月現在)の大ヒットとなり、関連の書籍やCDの売り上げが伸びたことが挙げられる。

 参加者38名(うち会員26名+非会員12名)、募集3日間で満席になり、会員を含む多くに方にお断りせざるを得ないほどの人気「部会」となった。

(文責:出版流通研究部会)