<アピール> 「特定秘密保護法案」に反対する

2013年10月28日

憲法と表現の自由を考える出版人懇談会

 

 政府は10月25日に「特定秘密の保護に関わる法案」(以下「秘密保護法案」)を閣議決定し、国会に提出、特別委員会で審議されることとなった。安倍総理は国会答弁でも、国家安全保障委員会設置法案とともに、それと一体のものとしてこの法案の成立に強い意欲を示している。

 この法案は、政府が防衛・外交・スパイなどに関わる情報を「特定秘密」に指定し、それを漏らした公務員や一般人に最高10年の懲役刑を科するというものであるが、そもそも今なぜ、この臨時国会に慌ただしく上程し、成立させなければならないのか?

 法案の概要を示したのが去る9月3日。パブリックコメントも通常の半分の2週間で打ち切り(その短期間に9万件の意見がよせられ、内80%が反対意見)、日弁連・新聞協会・民放連・雑誌協会・書籍協会・出版協・日本ペンクラブ・メディア総研・マスコミ関連労働組合・憲法学者など多くの組織や個人から反対や疑義の声が上がっているなかで、国民の「知る権利」を大きく制約する可能性のあるこの法案を、なぜ急いで成立させなければならないのか。

「秘密」を保護しなければならない差し迫った危機があるのか?

公務員ばかりか一般人にまで厳罰を課す「国家秘密」とは、何を指すのか?

「国家秘密」の指定は恣意的になされないという保証はあるのか?

等々、さまざまな疑問への説明が全く不十分である。

 論点となった「知る権利」に関して、最終修正案に出版における取材行為が明記され、「国民の知る権利」や「報道取材の自由」への配慮が盛り込まれたが、それらはあくまでも努力・配慮規定であり、刑罰対象となる「著しく不当な方法によるもの(取材行為)」とは、どういう取材を指しているのか、どうにでも解釈・運用できるのではないか。

 出版、とくに雑誌の取材は、新聞や放送に比べて、“雑誌だから取材して書いてくれるだろう”とした持ち込み情報が多々寄せられる。いわゆる“リーク”といわれるものだ。その場合、取材は表からというより裏から迫るケースもあり得る。また建前ではなく本音を聞き出す取材は往々にして内部に食い込まざるをえない。これを「著しく不当」と決めつけられるとすれば、事の真相に迫る取材は到底保障されない。取材が認められる「正当な業務」の範囲は全く定かではないのである。

 このように、取材活動が厳罰の対象になる可能性は排除されていない。加えて言えば、「出版又は報道の業務」以外の個人やネット、市民活動などの「知る権利」については全く配慮されていない。

 さらには、行政の長による恣意的な「特定秘密」の指定・量産をチェックするために、「すぐれた識見を有する者の意見を聴かなければならない」と定めているが、独立したチェック機能・権限をもつ第三者機関にはほど遠い仕組みといわざるをえない。

 以上のように「秘密保護法案」は、取材制限・情報封殺法としての側面が払拭できない上に、政府にとって不都合な情報は恣意的に「秘密」指定し、公開が封じられる恐れのある法案である。

 出版活動に携わる私たちは、「言論・出版・表現の自由」を根底から危うくするこのような法律の制定に強く反対するとともに、多くの出版関係者が「特定秘密保護法案」反対の声を上げられるよう、心から訴えるものである。 

【憲法と表現の自由を考える出版人懇談会:共同代表世話人/世話人】

岡本厚(岩波書店社長) 菊地泰博(現代書館社長) 清田義昭(出版ニュース社代表) 篠田博之(創出版代表) 嶋田晋吾(EIC代表) 高橋和男(講談社編集総務局次長) 山了吉(小学館社長室顧問)/浅野純次(元東洋経済新報社社長) 伊藤洋子(元東海大教授) 菊池明朗(筑摩書房相談役) 下中直人(平凡社社長) 古岡秀樹(学研ホールディングス取締役) 元木昌彦(元講談社)


<連絡先:出版人懇談会事務局 文京区湯島2-31-10-202 Eメール: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください