マルチメディアと出版の近未来


3.5  技術革新とオンデマンド出版

 仕事のやり方で様々であるが、大切な事は、印刷所や製版所との基本的関係を変えずに、編集上の“コンピュータ化”のあり方をよく考え合うことである。
 人的な構成によって自ら考え方も変わってくるし、周辺環境も整ってくると思える。その時、初めて“情報の内製化”によるメリットも出てくるといえる。
 情報の内製化とは、コストメリットということもあるが、電子メディアへの変換など二次的生産物のコストメリットが考えられる。将来的には、自社内のデータベース化などの可能性も考えられる。

*印刷が変わる
 DTPだけではなく、印刷現場の技術革新は急速です。'95年の5月にドイツで開かれた印刷と紙の国際総合機材展「ドルツパ'95」以来印刷の世界ではCTP“コンピュータ・トゥ・プレート又はプレス”が浸透しつつある。
 文字も画像もディジタル化された結果、フィルム工程を通さずに、コンピュータの中の情報を直接「刷版」に出力し印刷するダイレクト印刷や、コンピュータの情報を直接「印刷」するいわばディジタル・オフセットの登場である。通信衛星を通しての伝送も可能ですから、カラー印刷も“どこでも、誰でも、いつでも”が可能になったといえる。
 実際には、コストの点でまだ難点があるし、ディジタル伝送を可能にするISDN(総合ディジタルサービス通信網)など情報インフラの整備もまだまだである。しかし、東京一極集中型の大量印刷の分散化が可能なわけだから、近未来的課題といえる。例えば、新聞などの中央紙が多極同時印刷へ移る可能性は充分に考えられている。
 出版でも、もちろん週刊誌や月刊誌の大量印刷の分散化が可能であるが、新聞と違い“本の世界”は、自社の配送システムがないことがネックになる。取次―書店という出版の六割以上を占める流通システムは、業界全体の“共有”システムであり、地方で印刷された出版物も、一端、東京へ出荷されて、全国へ配本されており、ここでも配送システムの大変化が必要になる。

*オンデマンド出版とは
 アメリカではオンデマンド出版が話題になっているが、オンデマンドのデマンドは需要という意味である。
 “本”を一定部数印刷して“販売”に備えるという体制から、需要があったときに必要部数のみ印刷・製本して供給するという意味である。
 コンピュータ・トゥ・プレス方式だと極端な話、一部からでもカラー印刷が可能ということになる。すでに、アメリカの科学雑誌では、情報の基本的な提供の方法をオンライン方式に切り変え、紙媒体への提供はオンデマンド方式にしている例もある。
 日本でも、日販が、1999年10月より、大手出版社28社と共同出資で「ブッキング」を設立、13社、53点の絶版本を供給、インターネットや全国10000店の日販の取引書店で注文を開始した。
 なお、ブッキングでは、今後、大日本印刷とオンデマンド出版の業務提携し、低コストの製作を目指すとのことである。トーハンでも凸版印刷と共同で設立した「DPS(デジタルパブリシングサービス)」でオンデマンド書籍出版のサービスを開始、2000年3月から、特約店となる500書店で、学術書や専門書60点の受注を開始した。 また、大日本印刷でも、オンデマンドによる出版サービス「HONNCO on demand」を設立、希少本や絶版本の供給を開始した。 これらの動きに刺激され、中小印刷でも、「受注は小さいが、需要は大きい」とオンデマンド印刷に活路を見出そうとする気運が盛んである。


©1998年/2000年 Shimomura