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◎ 今月のプログラム
 日本ジャーナリスト会議出版部会“出版・ろばの耳”

著作権入門講座
(3)「複製・複製権」とは何か?
出版メディアパル編集長 下村昭夫

ユニ著作権センター学習会ノートより=著作権の基礎知識

T. 複製の概念とその拡大規定

 著作権法第2条第1項十五号によると、「複製」とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為含むものとする」とある。
そして、複製の拡大範囲として、「イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物、当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、または録画すること」「ロ 建築物の著作物 建築に関する図面に従って、建築物を完成すること」の二つが挙げられている。
複製の例示として、「印刷、写真、複写、録音、録画」などが挙げられているが、今後予想される新たな複製手段が登場すれば、もちろん、その方法による「有形的な再製」も「複製」も含まれることになる。
なお、ここでの「有形的な再製」=「複製」の概念には、テレビ受像機やラジオ受信機による著作物の再製のように、「瞬時で消える再製」は含まれておらず、何らかの媒体上に著作物が一定時間上にわたり、固定して再製される状態を定義している。もちろん、放送された番組を録音・録画すれば、複製に当たることになる。
また、「再製」とは、若干の修正を含み原著作物をそのままの形で再現することをいい、何らかの創作性が加わる「再製」は、二次的著作物として扱われる。

<脚本などの著作物の複製範囲の拡大>

著作権法第2条第1項十五号(イ)の「脚本」などの複製概念の拡大について考えてみよう。
脚本・台本・シナリオなどを雑誌や本の形で発行することは、「言語の著作物の複製」にあたることは疑問の余地はない。
上演されている芝居・演劇・口演などをビデオ撮影したり、舞台中継などの放映・放送のための録音や録画する行為は、脚本の直接的な形での複製とはいえないが、そのビデオや録画・録音に実演家である俳優や音楽家の権利など他の権利者の権利が及ぶのに対し、その作品のルーツである脚本家などの権利が認められないとすれば、きわめて不公正なことになることを避けるため、これらの複製行為にも、脚本などの著作者の権利の及ぶ範囲としている。
なお、映画のビデオ化は、映画の著作物の二次的利用に当たり、脚本家などの原著作者の権利は、当然、保護される(著28条)。

<建築物の著作物の複製範囲の拡大>

著作権法第2条第1項十五号(ロ)の建築設計図と建築の関係にも同じような複製概念の拡大が規定されている。
設計図を図面のままコピーしたり、本や雑誌に図面の形で掲載したりすることは「図形の著作物」の複製であることに疑問の余地はない。
では、建築の著作物の複製とは何かを考えてみると、出来上がった建築物の写真や絵に基づき、そっくりの同じ形の建築物を完成させたとしたら、その模倣建築物は、オリジナルの建築物の複製に当たることになり、無断で行えば複製権侵害となる。
ここで、設計図は「図面の著作物(著10条六号)」であり、完成され建築物は「建築の著作物(著10条五号)」であるが、設計図(図面の著作物)に基づく建築物を図面の著作物の複製としてでなく、「建築の著作物の複製」として、設計者の権利を擁護している。
(なお、本項は、主に吉田大輔氏の「明解になる著作権201答(出版ニュース社)」を参考にした)


U.デジタル情報の複製とその問題点

著作権法の「複製」の概念には、アナログによる複製とデジタルによる複製の区別はない。 CD−ROM(コンパクトディスクを利用した読み取り専用メモリー)やDVD(デジタル多機能ディスク)などのデジタル媒体への違法複製がしばしば、問題になるが、デジタル方式での複製は、誰にでも簡単にできることから、従来にない規模での違法複製が後を絶たない。

<一時的な蓄積と複製>

ここでは、コンピュータのハードディスクへの「一時的な蓄積」が複製に当たるかどうかの問題点を考えてみたい。
日本の著作権法では、「一時的蓄積」は、テレビ受像機やラジオ受信機による「瞬時の複製」と同じように考え、「複製」の概念に入れることに慎重であるが、アメリカやヨーロッパでは、「一時的蓄積も複製」と捉える考え方が主流となっている。
この考え方が、日本の著作権法に導入されてきた場合、コンピュータソフトの利用の側面で、しばしば「利用者が権利者の許諾を得る」必要が生じ、利用者にとっては、大きな衝撃を与えることになり、その推移を見守ってゆきたい。
<公衆送信権と送信可能化権>

1996年12月、WIPOでは、著作権に関するベルヌ条約を補強する新条約を採択した。その新条約によると、「コンピュータプログラムやデータベースの著作権の保護」「著作物の頒布やレンタルに関する著作者の許諾権の承認」「写真の著作物の保護期間の拡大」「コピー機能解除装置の販売禁止」「著作権に関するデータベースの改ざんの禁止」などが採択された。
この採択を受け、写真の著作権が「公表後50年」から「死後50年」(国際的には死後70年)へと改正されたほか、ネットワーク時代への対応を含んだ次のような「改正著作権法」が1998年1月から施行された。
「ネットワークへの接続行為について、実演家及びレコード製作者に許諾権(著作隣接権)を認める」「著作物をネットワークに接続する行為を送信に含め、著作権が及ぶこととする」「同一のLAN(企業内情報通信網)内でのコンピュータプログラムの送信を送信の保護に含め、著作権が及ぶこととする」「無線によるインタラクティブ送信について新たな規定を設け、概念上、有線との区別は行わない」などとなっており、「公衆送信権並びに送信可能化権」という新しい概念が著作権法に規定された。
その後、1999年10月改正では、プログラムのコピープロテクション解除装置の製造・販売を禁止することなどが決められた。
また、デジタル化やネットワーク化の進展に伴い、著作権および著作隣接権の管理制度の整備の必要性から、「仲介業務法」が2000年11月に全面改正され、新しく「著作権等管理事業法」が、2001年11月から施行された。

<デジタルコンテンツの特性>

デジタルコンテンツの特性を表す言葉に「マルチメディア」という概念がある。マルチメディアの著作物とは、「文字、音声、静止画、動画などの多様な表現形態の情報を統合した伝達媒体またはその利用手段で、単なる受動的な利用でなく使用者の自由意思で、情報の選択、加工、編集等ができる双方向性を備えたもの」と考えられており、コンピュータソフトやデータベースの著作権の延長線上にある特異な著作物として立案される方向性にあるが、いまだ、著作権法には、明確な定義はない。 マルチメディアの著作権法上の問題として、その著作物性、制作に係る権利の帰属、利用に係る権利の内容、利用に係る権利の制限などの諸点が議論されており、新しい概念を作りあげるため時間をかけて検討が継続されている。
文化庁では、画像・音声・データなど幅広い著作権を一元的に管理するための「著作権権利情報集中機構(J-CIS)」を発足させる構想を進めており、マルチメディア著作権の法制化に先立って「マルチメディアソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理」について、製作者・権利者間の契約における許諾範囲の明確化、利用者による改変と同一性保持権との関係、権利所在情報の提供体制の整備、権利の集中管理の必要性などの環境整備を急いでいるとしているが、その構想は、遅遅として進んではいない。

V.著作権とネットトラブル

ここでは、著作権法の複製概念との関連で、幾つかのネットトラブル事例を考察したい。

<リンクとフレーム構造>

インターネットが新しい通信システムとして、世界中に発展した要因の一つに「オープンURL」がある。簡単なアドレスを登録することで、世界中に通信できる機能である。もうひとつは、ホームページなどに、そのアドレスへのリンクを貼ることで、自由にWeb上のネット・サーフィンが可能になることである。
リンクを貼ることは自由に行えるが、L字型のフレーム構造(枠組み)のWebページに、「許可なく他人のWebページへのリンクを貼り、他人の著作物であるWebページを取り入れる行為」は違法な複製となる。この場合、リンクを貼ったページが「他の独立した新しいページ」になるように工夫することが大切である。
<Webメディアへの再利用>

電子メディアの特徴の一つは、その複製が簡単に行えることである。雑誌や書籍に掲載された原稿の電子データを再加工して、Webページなどに流用することが、昨今では多く見られるようになった。
雑誌の原稿は、「買い取り原稿」と思い込んでいる誤解が出版界には多く存在するが、雑誌への掲載は、特に定めのない限り、一回だけの「優先的な掲載契約」となる。この場合、たとえ、雑誌の掲載記事であったとしても「Webページ」に再利用するためには、著作者の許諾を得るべきである。
なお、著者サイドから、本や雑誌に提供した情報のWebでの公開に同意を求められることも多くなった。その公開の形には、一定の協議が必要と思われるが、Webへの二重の情報提供は、「排他的・独占的な契約」がない限り、著者の権利行使の一つといえよう。
また、昨今では、紙媒体からネット媒体というコースだけでなく、ネット媒体での情報提供が優先されるケースも増えてきた。
特異な例としては、「プログ」と呼ばれる日記スタイルの書き込み情報から生まれた「電車男」のようなベストセラーも生まれた。この例では、「著作者は誰か?」「書き込み者の許諾を得たのかどうか?」「印税の受取人は?」などという疑問が生まれ、話題を提供している。
また、携帯メールの連載小説の配信から、冊子版の「Deep Love」が生まれ、4巻合計で150万部を超えるベストセラーとなった。

<違法な複製とネット配信>

インターネットに提供されている多くの情報は、無料で公開されている。このことから、他人のホームページから、安易にコピーして「新たな原稿」にする行為がしばしば問題になる。もちろん、「私的な利用でのコピー」は合法であるが、無料で提供されている個々のホームページの「著作権はリザーブ(保留)」されていると考えるべきである。
違法に複製された電子情報をインターネット上で配信する行為は、複製権の違反(21条)、並びに公衆送信化権(23条)の違反になる。
アメリカのナップスターのような「ファイル交換システム」による音楽ソフトの交換による被害は甚大であり、「許諾を得ていない音楽ソフトのファイル交換」は、日本流にいえば、複製権侵害及び公衆送信権の侵害並びに演奏家たちの送信可能化権を侵害する行為になる。
日本でも、その「ファイル交換ソフト」による複製権違反事件が続発しているが、昨年、開発者を訴える事件が発生した。
「ファイル交換ソフト」そのものは有用な技術であり、違法行為者を取り締まらないで、ソフトの開発者を取り締まる行為は、カラーコピー機による「偽札づくりの実行犯」を取り締まらないで、コピー機の製造業者を「ほう助罪」で取り締まるようなものといえる。
なお、この公衆送信の概念には、社内LAN(企業内送信網)での送信も含まれることになる。社内LANによる汎用ソフトの共有は違法といえる。元々、コンピュータソフトのライセンス契約は「1CPU・1ソフト」でのインストールを想定しており、「東京リーガルマインド事件」のような違法行為は論外である。

<デジタル万引きを考える>

「マガ人はマナーを守る」と書かれたポスターが、雑誌愛読月間に当たる2003年7月21日から1ヵ月間、書店の店頭に張り出されていた。
注意深くご覧になった方は、「情報を記録することは、ご遠慮ください」とあった注意書きにお気づきになったことと思う。実はこのポスター、カメラ付き携帯電話による若者たちの雑誌などの「盗写」に絶えかねての日本雑誌協会と電気通信事業者協会共同のマナーキャンペーンである。
本屋さんの店頭に展示されている本や雑誌は、読者の皆さんに手にとって見ていただくための商品見本である。常識の範囲内でご覧いただくことになんら不都合はない。同時にその商品見本は、即販売される商品でもある。汚したり、破ったりしないように「そっと見る」のがマナーといえる。
何時間も「立ち読みする人」、本の内容を「書き写す人」、読み終えたページを「折り曲げる人」など、従来からも、本屋さん泣かせのお客さんがいなかったわけではない。しかし、カメラ付き携帯電話で、写真ページなどを「堂々と撮影されてしまう」となると、この行為、「立ち読み」の現代版と簡単に見過ごせなくなる。
本屋さんの経営を圧迫している万引の被害は、「一店舗あたり212万円にのぼり、年間売り上げの1〜2%」にも達する(経済産業省調べ)。本を盗むのは、明白な犯罪行為といえるが、本や雑誌の「情報を盗む行為」を直接取り締まる法律がない。しかし、本も雑誌も情報を「売っている商品」である。
この盗写行為を「立ち読みの延長」であり、「著作権法の私的利用」と解説する向きもあるが、明らかな「フリー・ライド(ただ乗り)」であり、「情報を盗む行為=不正コピー」は、新しいタイプの犯罪行為といえる。盗写する若者たちのマナーの向上を望みたいものである。
この「デジタル万引」、昨今の「ハッカーたちがコンピュータの情報を盗む行為」によく似ている。高度な技術力を社会の発展に寄与することに活用してほしいものである。

W.「出版とは何か」を考える

 最後に、「出版とは何か」を考察し、著作権法でいう「複製の概念」を考察してみたい。
 著作権法第80条の出版権の内容規定に関し、「出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原型のまま印刷その他の機械的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する」とある。
 ここには、「出版とは何か」に直接応えることなく、出版権を行使して、「出版する」行為のための手法を定義することで、「出版とは何か」を定義つけていると思える。
 ところで、その「出版行為」は、本や雑誌の形に、著作物を「複製」することで完結するわけではない。当然、それらの複製された著作物は、「頒布」されてこそ、初めて、複製の目的が貫徹されることになる。 いいかえれば、「著作物の複製」と「著作物の頒布」が結びついてこそ、市場社会における出版行為(複製行為)の目的である「出版とは何か」の意味づけが明確になる。
 ここで、旧著作権法の定義を見てみよう。旧法では、「---著作物ヲ原作ノ儘印刷術其ノ他ノ機械的又ハ化学的方法ニ依リ文書又ハ図画トシテ複製シ之ヲ販売頒布スルノ権利ヲ専有ス」とあり、「複製と頒布」という二つの行為を一体化して定義つけている(旧法28条の3)。
 出版社は、通常、雑誌や書籍の複製に当たり、その製造をプロダクションや印刷会社などの依頼しているが、この外注化による「複製」の責任者はあくまで出版社である。  昨今、印刷会社の所有している「印刷用フィルム」の帰属を巡り、裁判所は、「印刷用フィルムの所有権は、印刷会社にあり」とし、「印刷会社は、印刷物を提供したことで、その債務責任を果たしており、製版用フィルムは、その中間的生成物」としたが、「複製の責任者はあくまで出版社である」ことを見逃した判決と思える。なお、この判決は、今後、デジタルデータの帰属を巡り、重要な意味を持つことになり、出版社は、今後、「印刷用フィルムやデジタルデータの権利は当社にあり」との契約でも結ばないと、トラブルの要因となる恐れがある。
 また、現在の出版流通の基本は、複製物である本や雑誌の販売も基本的には、取次や書店に委託しているが、複製物の「発行・販売責任」も出版社にあることは言うまでもない。

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