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◎ 今月のプログラム
 出版メディアパル学習ノート

著作権入門講座
(2)「出版権」と出版契約
出版メディアパル編集長 下村昭夫

ユニ著作権センター学習会ノートより=著作権の基礎知識

T 出版に関する契約の諸類型

 著作権法には、直接「出版」に関する定義付けはない。 出版という仕事は、「頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する」社会的行為ということができる(著作権法80条第一項)。
 出版契約とは、このような「複製・頒布」行為について、著作者(著作権者)と出版者の間の法的な取り決めを行う行為だといえる。
 日本書籍出版協会発行の「出版契約ハンドブック(第2版)」によると、本を発行する際の「出版に関する契約の諸類型」は、次のように分類することができる。

a.複製権そのものを譲り受ける場合
 (@)著作権譲渡契約
 (A)複製権譲渡契約
b.複製権の利用につき許諾(ライセンス)を受ける場合
 (@)出版権設定契約(79条一項および二項)
 (A)(債権的)許諾契約 ⇒ 単純許諾契約
                 ⇒ 排他的許諾契約

 出版者の側から見て、もっとも強い契約が、a-@の「著作権譲渡契約」である。複製権を含んだ著作権全体が出版者の権利となり、著者権者には、著作者人格権のみが残る。
 a-Aの「複製権譲渡契約」の場合には、複製権だけが出版者の権利となるが、著作権の中心は、複製権であるので、出版者は十分目的を果たせ得るといえる。
 b-@の「出版権設定契約」(準物件的契約)の場合は、出版権が設定されている期間のみ、「出版という様態に限る複製権」が出版者に一時的に提供されていることになり、その期間中は、著作権者の複製権が冬眠している状態といえる。
 なお、出版界では、いわゆる「書協モデル(出版契約書・一般ひな型)」に基づく出版契約が推奨されており、「出版権設定契約」になっているケースが多いと推定される。  b-Aの債権的出版許諾契約の場合には、著作権者が他に同じ許諾契約をしたとしてもそれを妨げることはできない。
また、排他的許諾の場合にも、著作権者が他に同じ許諾契約をしたとしても、著作権者の債務不履行になるだけで、二次出版者に対して「出版差止め」などを求めることはできない。
 したがって、出版界では、出版者の権利擁護のため、「書協一般ひな型」に基づく「出版権設定契約」を推奨してきたわけであるが、近年、著作者団体などから、設定権至上主義と、不都合を指摘されてきた経緯がある。
 2004年に、ユニ著作権センターが提案した「出版契約書・ユニAモデル」は、出版権設定を前提としない債権的な「独占的・複製許諾契約」の一モデルであるが、著作者(著作権者)の権利を尊重しながら、出版の側から、メディア複合化時代の契約のあり方(電子メディアを含む契約)に多様な対応を提起した柔軟型モデルといえよう。
 また、書協からも、2005年12月に、設定出版権にこだわらない「著作物利用許諾契約書(案)」が提案されており、出版契約に関する選択肢が広がったことは喜ばしい。
 なお、出版契約の重要な柱となる「使用料及び支払い方式」は、一般に、ロイヤリティとしての「印税(著作権使用料)」が一般的であり、通常、「本体価格の10%前後」とすることが多い。支払い方式としては、「発行部数制」と「実売部数制」の二通りがあり、最低保証金額(ミニマムロイヤリティ)を設定しているケースもある。
 雑誌・新聞・絵画・写真・イラスト等の場合には、「原稿料」支払いが多い(⇒買取という表現のあいまいさに注意)。
編集者の実務学としての契約に関する啓蒙書としては、「著作権と編集者・出版者」(豊田きいち著;日本エディタースクール出版部)が、「出版契約の新しい動き」などを詳述しているので、お勧めしておく。

U 著作権法第3章「出版権」の逐条解説

(出版権の設定)
 第七十九条 第二十一条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
 2 複製権者は、その複製権を目的とする質権が設定されているときは、当該質権を有する者の承諾を得た場合に限り、出版権を設定することができるものとする。
 著作権法21条では「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」と規定されており、その権利を専有するもの(著作権者)を、この章では、「複製権者」と定めており、出版者に対して、「出版権」を設定する権利を保障している(出版権≒複製権が、一時的に出版権者に移転する)。
 複製権者と出版権者の「準物件契約」といえる。この契約により、出版権者は、排他的・独占的出版権を取得する。
<問題点>
 出版権は紙媒体による複製に限られるが、複製権には電子媒体による複製も含まれる。
 電子媒体のよる発行物を一般に「電子出版」と呼んでいるが、著作権法の「出版」の範疇に含まれるのか、否か?

(出版権の内容)
 第八十条 出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。
 2 出版権の存続期間中に当該著作物の著作者が死亡したとき、又は、設定行為に別段の定めがある場合を除き、出版権の設定後最初の出版があつた日から三年を経過したときは、複製権者は、前項の規定にかかわらず、当該著作物を全集その他の編集物(その著作者の著作物のみを編集したものに限る。)に収録して複製することができる。
 3 出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない。
 出版者とは、発意と責任をもって、著作物を複製し、販売・頒布を引き受ける者をいう。
 いったん出版権が設定されると、当該出版物にかんする複製権は、出版権者が専有することになる。したがって、出版権者が排他的・独占的に当該出版物を複製(=出版)することができる(期限付き譲渡契約ともいえる)。
<問題点>出版権設定期間内に他社からの「文庫」発行に、一定の「経済的条件」をつけて、許諾するケースがしばしば見受けられるが、この行為は「著作権法違反」か?
  それとも「慣行上の許される権利」か?
 支払われる金員は、「許諾料相当額」か「権利移転補償金」か?
 このとき、「出版権」は、二次出版者に移転するのか? 
権利が移転するとすれば、オリジナル版(親版)の発行は維持できるのか?
 また、文藝家協会の出版契約書のひな型では、出版権を「単行本、文庫、新書」に分割しているが、その是非は?

(出版の義務)
 第八十一条 出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
 一 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務
 二 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務
出版権者は、原稿の引渡しを受けた日から、6ヶ月以内に当該著作物を発行する義務を負っている。また、継続して、出版を維持する義務を負う。なお、これらの規定は、設定で別段の定めをした場合には、この限りでない。
 <問題点> 出版界では、しばしば「品切れ=絶版」という行為が行われるが、これは、著作権法違反か? それとも、経済法則上の許容範囲か? 
 また、雑誌に掲載された記事に「出版権」設定は可能か?

(著作物の修正増減)
 第八十二条 著作者は、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができる。
 2 出版権者は、その出版権の目的である著作物をあらためて複製しようとするときは、そのつど、あらかじめ著作者にその旨を通知しなければならない
著作者の修正・増減(著作人格権)の権利を守るための規定された条項で、出版権者は、当該著作物を複製しようとするときは、著作者(譲渡されている場合には、原著作者)にその旨を知らせなければならない。

(出版権の存続期間)
 第八十三条 出版権の存続期間は、設定行為で定めるところによる。
 2 出版権は、その存続期間につき設定行為に定めがないときは、その設定後最初の出版があつた日から三年を経過した日において消滅する。
 設定期間は、複製権者と出版者の間で、自由に取り決めることができるが、定めのない設定行為は、最初の出版の日から、3年で設定された出版権は消滅する。設定期間終了後、著作権(複製権)は著作権者に復帰する。

(出版権の消滅の請求)
 第八十四条 出版権者が第八十一条第一号の義務に違反したときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。
 2 出版権者が第八十一条第二号の義務に違反した場合において、複製権者が三月以上の期間を定めてその履行を催告したにもかかわらず、その期間内にその履行がされないときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。
 3 複製権者である著作者は、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたときは、その著作物の出版を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。ただし、当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償しない場合は、この限りでない。
 出版権者が「6ヵ月以内出版義務」や「継続出版義務」に違反したときは、著作者(複製権者)は、出版権者に通知して、出版権を消滅させることができる。
 また、著作者(複製権者)は、「その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたとき」は、出版を廃絶するために、出版権者に通知して、その出版権を消滅させることができる(経済的「損害」に対する補償義務あり)。

(出版権の消滅後における複製物の頒布)
 第八十五条 削除 (平十一法七七・全改)
<注>この規定はなぜなくなったのか? 契約の問題か?

(出版権の制限)
 第八十六条 第三十条第一項、第三十一条、第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十四条第一項、第三十五条、第三十六条第一項、第三十七条第一項、第三十九条第一項、第四十条第一項及び第二項、第四十一条から第四十二条の二まで、第四十六条並びに第四十七条の規定は、出版権の目的となつている著作物の複製について準用する。この場合において、第三十五条及び第四十二条中「著作権者」とあるのは、「出版権者」と読み替えるものとする。
 2 前項において準用する第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第四十一条、第四十二条又は第四十二条の二に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者は、第八十条第一項の複製を行つたものとみなす。
 (平四法一〇六・各項一部改正、平十一法四三・1項2項一部改正)
 第1項は、著作権法30条〜42条の2まで、及び46条、47条などに規定されているさまざまな「著作権の制限」規定を「出版権の目的となつている著作物の複製について準用する」規定であり、この場合、「著作権者」を「複製権者」と読み替える規定である。第2項は、第1項基づく複製物の目的外の頒布には出版権が及ぶみなし規定(49条参照)。

(出版権の譲渡等)
 第八十七条 出版権は、複製権者の承諾を得た場合に限り、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。
複製権者の承諾を得ない出版権の譲渡または質権の設定は、違法行為となり、複製権者は、その譲受人に対して、出版の差止めを要求できる(出版権⇒準用益物権的性質)。

(出版権の登録)
 第八十八条 次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
 一 出版権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)、変更若しくは消滅(混同又は複製権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
 二 出版権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は出版権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
 2 第七十八条(第二項を除く。)の規定は、前項の登録について準用する。この場合において、同条第一項、第三項及び第七項中「著作権登録原簿」とあるのは、「出版権登録原簿」と読み替えるものとする
 (平十一法四三、平十二法一三一・2項一部改正)
 登録は、登録権利者および登録義務者の共同申請が原則であるが(著作権法施行令16条)、申請書に登録義務者の承諾書を添付したときは、登録権利者のみで申請することができる(施行令17条)としている。したがって、「書協・一般ひな型」では、「甲は、乙が本著作物の出版権設定を登録することを承諾する」とある。
 出版権登録申請書には、出版物の題号、権利の表示、登録の原因及びその発生年月日、登録の目的などを記入し、出版契約書の写し、著作物の明細書などを添付する。
 ただし、文化庁著作権課への登録は、「一件あたり3万円」を要することになり、登録数は多くないと見られる。
<問題点>
今後、「登録制度」は、必要なのか?


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