4.2 プライバシーの侵害と著作権
花 子 | この間、新聞のタイトルで、『日はまた昇る』という経済記事を読んだんだけど、これは、著作権侵害には、ならないのかしら? |
太 郎 | ヘミングウエイの小説と同じタイトルというご指摘のようだが、タイトルだけでは、著作権の保護の対象にはならないのだよ。 |
花 子 | あら、そうしたら、同じタイトルの小説を書いてもいいわけね。 |
太 郎 | モーパッサンの「女の一生」も同名の小説が日本にもあるし、話題の「失楽園」もミルトンの有名な叙事詩があるね。 |
花 子 | じゃ、そのタイトルが登録されていれば、どうなるの? |
太 郎 | 一般に小説のタイトルをあらかじめ登録するケースは、あまり考えられないが、商品名や雑誌の題号などの登録はあるね。最近、話題になったケースでは、「ジャイアンツ」という商品名や「東急」という芸名がそれぞれ不当競争に該当するとして、使用差し止めになっているね。 |
花 子 | 別のことだけど、文芸春秋社から発行された三島由起夫に関する小説が著作権侵害に当たるとされたことは? |
太 郎 | あの事件の場合は、作家の福島次郎氏の実名小説「三島由紀夫―剣と寒紅」を巡り、遺族が「小説の中で三島の手紙が無断で公開され著作権が侵害された」。 また、手紙の無断公表は、「三島が生存していれば、著作者人格権の侵害にも当たる」と福島氏と文芸春秋社に出版の差し止めなどの仮処分を求めていた事件だよ。 |
花 子 | 新聞の報道によると「私信が著作権法上の著作物にあたることを認めた初のケース」と書いてあったわ。 |
太 郎 | 著作権法の保護の対象は、「公表された著作物」となっているから、その点は、今後、議論されることになると思うが、「プライバシーの侵害」に当たるといえるね。 |
花 子 | プライバシーの侵害事件と著作権の関係は、どうなっているの。 |
太 郎 | 皮肉なことには、かって、三島由紀夫氏自身がプライバシー侵害で敗訴しているんだよ。「宴のあと」事件と言ってね。1958年に、都知事選に立候補した元外務大臣の有田八郎氏の私生活を「中央公論」誌に連載したところ、プライバシー侵害で訴えられた事件だよ。 |
花 子 | 編集に携わるものとして、基本的人権をしっかり守ることが大切なのね。 |
©1998年 Shimomura