渦(出版界の内と外)


1.10  初版原価と重版原価

花 子原価の考え方に関して、読者の方から、「少し調査資料が古過ぎないか」「直接製造原価の2.45倍の定価付けでは、初版で利益はでないのではないか」というご意見と、「重版原価の考え方」についてのご質問が届いたわ。
太 郎昨年の書籍出版協会の調査資料でも、平均的な定価付けが直接製造原価の3倍程度となっており、初版原価の考え方に大きな変化はないといえる。印税を除いた直接製造原価の3倍の定価付けをシミュレーションして、初版部数が全部売れることを想定して採算点を計算してみよう。
花 子採算点って、本の生産にかかった全部の費用が回収できる部数のことだわね。
太 郎いま仮に、本体価格2000円の本を3000部生産した結果、固定費が130万円、変動費が70万円かかったと仮定しよう。この本の正味を7掛けとして、採算点を計算してみると、1428部が採算点となる。
花 子残りの1500部ほどが、この本の利益ということね。
太 郎そうだね。1500部×2000円×0.7で、210万円程度が、この本の粗利益ということになるが、この中から定価の10%程度の印税を支払い、直接製造原価以外の販売費・広告費や人件費を含む一般管理費がまかなわれることになり、ご指摘のように初版部数で利益を生み出すことは、大変厳しい状況があるね。
花 子重版がかかって、やっと息がつけるって、よく、先輩の編集者が言っているわ。ところで、重版の原価はどのように考えればよいの?
太 郎重版発行時には、組み代や製版費が軽減されるので、10%〜12%程度原価率が下がることになるが、今度は、重版部数の設定がコストラインを考える上で大きな要因となる。昨今の例だと、専門書の場合、重版の想定部数の最低が1000部を割り込んで、700部、500部となり、重版の原価率も上昇しており、加えて、新刊書の重版への移行率の低下が問題になっている。
花 子まるで、トリレンマのような状況ね。ところで、出版社の利益率ってどれくらいなの?
太 郎矢野経済研究所の「出版社経営総鑑」によると、出版社上位300社の利益率(経常利益)の平均が、4.5%程度となっており、出版産業を取り巻く状況の悪化を分析している。
花 子重版がいっそう厳しいから、新刊書への傾斜が強まり、7万点もの新刊書が発行されることになるのね。
太 郎均衡の取れた出版産業への再生の道を真剣に模索しなければいけないといえるね。


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