出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(1月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、2004年1月掲載分をご紹介する。

(18)新しい年への課題 (2004年1月6日号)
 この一年、振り返るとマイナス成長下の厳しさだけが浮き彫りにされる一年だったと思える。
 『ハリー・ポッター』の不在を247万部を突破した『バカの壁』が若干補ったとはいえ、大手版元も軒並み「減収減益」が報じられるなど、不況感がますます強まった。
 新しい活路を求めて、取次5社が共同で、返品処理施設『蓮田センター』を稼働させ、日販は、市中在庫の把握や契約指向の書籍流通という新しいビジネススタイルの構築を目指すトリプルウイン計画を提案した。
 『出版倉庫流通協議会』が発足し、ICタグの実験など、出版流通の改善策を実行に移し始めた。
版元では、講談社が世界最大の書籍出版社ランダムハウスとの本格的な提携を実現させ、グローバル化が推進された。
 書店では、家電量販店などによる実質的な割引行為にあたる「ポイント還元」や「万引きの被害」よる影響が顕著に現れた。
電子書籍用の新しい端末機が発売され、本格的な事業展開に向け、スタートが切られた。出版業界の念願のひとつであった本や雑誌に対する「貸与権の確立」に向け、法改正の準備が整った。
 厳しい現実ではあるが、さまざまな夢を乗せ、「企画のたまご屋さん」という仕事創出に若者たちのチャレンジが始まった。
 編集の仕事は、「読者とともに、著者とともに、同時代を考え、夢をはぐくみ、未来へ向けメッセージを送り続ける」ことである。進化し続けるであろう電子メディアとともに、紙メディアである本も輝き続けることを確信して、新しい一年へのメッセージとしたい。



(19)企画提案メルマガ好発信 (2004年1月27日)
 不況の中、どの産業にも厳しい現実に負けずに、果敢に新しい事業に挑戦する若者たちがいる。
 さまざまな夢を乗せ、「企画のたまご屋さん」という仕事創出に若者たちのチャレンジが始まった。
 この構想を立ち上げたのは、「天才工場」という名の編集プロダクションを主宰する吉田浩さんたち、フリーランス500人の若者たち。
 毎日、メールで日本中の250社・500人の編集者に新しい企画を配信する一種の企画提案型のメールマガジンである。
 メールを受けた編集者たちが、実現可能と判断した企画について、発行の意思表示をすることから、出版化についての協議が始まり、その企画を育ててくれる出版社が決められてゆくシステムである。
 フリーランスの仕事創出の先輩格には、東京ライターズバンクやライターズネットワークなどの先駆的な相互支援組織があるが、出版企画そのものをあらかじめ提案し、新しい仕事を創出してゆくフリーランスの互助組織は初めての試みである。
 月一回の出版社の企画会議での採否を待ち続けるという受動型から、メールでの即決型へ、インターネット時代ならでわのこの試み、1月5日スタートの「企画のたまご屋さん」から、早くもいくつかの企画の発行が決定したとのこと。
 「企画と出版社」「著者と編集者」の出会いの場を作り、タイムリーな出版を目指したいという多くの夢が実現し、不況に負けない若者たちの挑戦が実ることを願い、ささやかながら、エールを送りたい。


©2004年 Shimomura