出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(7月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、7月掲載分をご紹介する。

(7)デジタル万引き (2003年7月15日号)
 「マガ人はマナーを守る」と書かれたポスターが、雑誌愛読月間が始まる7月21日から、書店の店頭に張り出される。
 よく見ると、「情報を記録することは、ご遠慮ください」とある。
実はこのポスター、カメラ付携帯電話による若者たちの雑誌や書籍のなどの「盗写」に絶えかねての日本雑誌協会と電気通信事業者協会共同のマナーキャンペーンである。
 本屋さんの店頭に展示されている本や雑誌は、もちろん、読者の皆さんに手にとって見ていただくための商品見本である。
常識の範囲内でご覧いただくことになんら不都合は無い。
 同時にその商品見本は、即販売される商品でもある。汚したり、破いたりしないように「そっと見る」のがマナーといえる。
 何時間も「立ち読みする人」、本の内容を「書き写す人」、読み終えたページを「折り曲げる人」など、従来からも、本屋さん泣かせのお客さんがいなかったわけではない。
 しかし、カメラ付携帯電話で、写真ページなどを「堂々と撮影されてしまう」となると、この行為、「立ち読み」の現在版と簡単に見過ごせなくなる。
 本屋さんの経営を圧迫している万引きの被害は、「1店舗あたり、212万円にのぼり、年間売り上げの1〜2%」にも達する(経済産業省調べ)。
 本を盗むのは「明白な犯罪行為」といえるが、本や雑誌の「情報を盗む行為」を直接取り締まる法律が無い。
 しかし、本も雑誌も情報を「売っている商品」である。その情報を「盗む行為=盗写」も明らかな犯罪といえる。
 この「デジタル万引き」、昨今、流行の「コンピュータの情報をハッカーして盗む行為」によく似ている。
 カメラ付携帯電話を駆使し、「盗写」する若者たちのマナーの向上を望みたいものである。



(8)読者を育てる森 (2003年7月29日号掲載)
 人と本との出会いは、不思議な物語を形成することがある。そんな「想い出の本」が、読者の皆さんの「心の本棚」の片隅にも、きっと、あるに違いない。
 街の書店は、その本との出合いを作り出し、著者と読者を結ぶ最前線である。本との出会いは、書店ばかりではない。図書館もまた本との出会いを演出してくれる重要な施設である。
 『日本の図書館―統計と名簿2002』(日本図書館協会)のデータによると、02年(平成14年度)における公共図書館の数は、2711館、登録者数4144万人、蔵書数3億1016万冊、貸出数5億1628万冊、予算336億円となっている(出所:「新文化」03年4月10日)。
 全国の市町村3300のうち、公共図書館があるのは半数で、イギリスは、日本の13倍近くの公共図書館を有するという。
 この10年、図書館の利用者(登録数)が急増しているのは、「市民のための図書館づくり」を図書館の関係者が進めてきたからに違いない。
 「図書館の貸出数の増大」が、「本が売れない」要因の一つのあげられているが、図書館は「読者を育てる森」といえ、図書館と出版界の共存は可能である。
 図書館と出版界の間の軋轢に「同一本の複数購入の問題」と「コピー機による複製」の問題がある。前者は、市民へのサービスと図書費の使われ方の問題であるが、図書館に「有料のコピー機を設置し、利用者への便宜を図る複製」は、著作権法31条の「図書館における複製」の規定からの逸脱といえ、「善処」願いたいものである。
 いま、必要なのは、図書館と出版界の対立ではなく、「図書館の充実のための予算の拡充」であり、活字文化育成のために協力してゆくことであろう。


©2003年 Shimomura