出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(6月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、6月掲載分をご紹介する。

(5)マンガ喫茶と貸与権 (2003年6月10日号)
 町の中に「マンガ喫茶」が登場して久しい。今では、インターネット・ゲーム喫茶との複合店が中心であるが、全国のマンガ喫茶は、推定2500店から3000店、年間500店から600店の勢いで増え続けている(日本複合カフェ協会調べ)といわれている。
 02年の推定売上が700億円程度、『1時間滞在が380円だとして、延べ1億8400万時間。1時間滞在中に1・5冊ペースで読まれたとして、2億7600万冊、定価換算で、1300億円分の読書総量になる』と、「21世紀を考えるコミック作家の著作権を考える会」(以下、「コミック作家の会」と略称)では、その被害額を想定していた(「出版ニュース」2月中旬号)。
 5月15日、コミック作家の会と日本複合カフェ協会(加盟店450店)との間で、『協会の加盟店舗で取り扱うコミックスの使用によって得られる対価の一部を漫画文化の発展のために還元する』ことなどで暫定合意に達し、本年末までに実務協定を結ぶ運びとなった。
 現行の著作権法に貸しレコード店の規制のため、「貸与権」が規定されたのが1984年(昭和59年)のこと。しかし、レコードやビデオ・CDに認められている「貸与権」は、著作権法の附則4条の2で「書籍や雑誌の貸与の場合には、当分の間、これを適用しない」と20年間、権利放棄されてきた。そのためマンガ喫茶が、実質的な「マンガの貸与」で利益を上げたとしても、作家さんにも出版社にも「なんら還元はない」。
 6年連続マイナス成長下で、コミックスの売り上げも激減、コミック作家の会などから、「貸与権確立」の声が上がっていた。
 今回の合意は、著作権法の改正を待たずに関係者間での合意事項。将来、「本の貸与権」を確立するためには、著作権法の附則の規定を削除する法改正が必要となる。



(6)ハリ・ポタ旋風 (2003年7月1日号:とまらないハリポタ)
 日本時間の6月21日午前8時1分、世界同時に『ハリー・ポッター』シリーズ第五巻の『Harry Potter and the Order of the Phoenix』が発売され、世界中で「ハリ・ポタ旋風」が吹き荒れた。
 日本でも、翻訳される和書を待ちきれず、若者たちが英文版に殺到し、「即日完売」の書店が相次ぎ、洋書としては、異例の五万部が一日で売れたという。
 ファンタジー・ブームの背景には、「ドリトル先生物語」「星の王子様」「くまのプーさん」「モモ」「はてしない物語」、「ゲト戦記など、岩波書店の児童文学書など多くの海外翻訳書が読まれてきた読書環境がある。
 「指輪物語」などとともに、世界的に大フィーバーしている「ハリ・ポタ」の読まれ方に日本独特の現象がある。
 世界各国の「ハリ・ポタ」フアンのほとんどが、子どもたちなのに比べ、日本では、若い女性の人気が高く、大人の読者層が厚い。
 20代の女性の人気を獲得した背景には、「重厚なハードカバー」にするなど本の製作上の工夫があったことが、児童向けファンタジーから飛躍した要因の一つであると分析されている(『出版指標年報』)。
 また、「ハリ・ポタ」が世界的人気作品であることに加え、定期的に発行されたことと、何よりも、シリーズの「映画公開」とが相乗効果を表したことが大きな要因になっている。
 昨年10月に発売された第四巻の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は、初刷り230万部、この3月までに6刷り350万部を数え、四巻までの累計は既に1650万部を超えている。
 作者のJ・Kローリングさんの「子供たちへの想いを込めたメッセージ」を運ぶこのシリーズは第七巻まで構想されており、世界的ブームを引き起こしている「ハリ・ポタ旋風」は、当面、止みそうにない。


©2003年 Shimomura