出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(5月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、5月掲載分をご紹介する。

(3)電子本と紙の本 (2003年5月13日号)
 今、出版は、さまざまな電子メディアの登場により、「グーテンベルク以来の大変化」を受けているといわれている。
 将来、“紙の本” は無くなり、“電子本” に置き換えられると “本の未来” を予測する記事にもたびたびお目にかかる。
 インターネットの普及、ブロードバンド化、携帯用情報端末機の多様化、オンデマンド印刷などと、時代を先取りする技術革新の後押しを受けての話題は華々しい。しかし、華やかな話題の割には、電子書籍の市場は、10億円程度と産業的には、まだこれからという状況である。
 読み物としての電子書籍は、これからの “夢” と言えるが、電子辞書は、市場規模400億円と一足お先に「花を咲かせている」感がある。ハンディタイプの携帯端末機用の電子辞書だけでなく、インターネットを使った電子辞書や携帯電話のiモードを使った電子辞書など、紙の辞書にはない「検索性」に富んだ電子辞書は若者たちの人気を集めている。

*         *         *

 電子書籍の特徴としては、「いつでも、どこでも購入できる。品切れや絶版をカバーできる。書棚の場所をとらない」などが挙げられており、短所としては、「ハードシステムが必要、電子端末機の性能に左右される、読みづらい。使い勝手が悪い」などが挙げられている。
 紙の本には “本” の優れた特性があり、電子書籍には “電子本” の優れた特性があるわけだから、それぞれの特性を活かした共存共生の時代だといえる。
 紙メディアを使うにせよ、電子メディアを使うにせよ、それは同時代をともに生きる人々へのメッセージを託し、 “心と心” を結びつけ合う媒体の一つを選択することに他ならない。



(4)本の流通とネット書店 (2003年5月20日号)
 日本における出版物の流通経路は複雑であるが、取次―書店ルートは、全出版流通の65%のシエアを担うメインルートであり、一般の商いでいう問屋さんに当たる取次は、「仕入れ、集荷、販売、配達、調整、倉庫、情報、集金、金融」などのさまざまな機能を有している。
 日本の取次機構が雑誌の配本を中心に発達し、大量の雑誌配本と新刊書の配本を全国一斉に「一定マージン(通常8%)」で送ることのできる「世界に類を見ない配送システム」であることはよく知られている。
 大手取次の1日あたりの業務量は、書籍が200万冊、雑誌が450万冊に及ぶという。その一方で、「一冊一冊の客注品」の対応には向かず、読者から見れば「欲しい本が手に入らない」「客注品が遅い」が流通の二大不満にさえなっている。
 この「客注対応型の書籍流通の必要性」が出版業界の共通の夢であるが、大手取次の「大型流通倉庫の建設」や「客注専用システム」の稼働などの努力にもかかわらず、その本格的実現の道は遠い。
 1月には、業界初の日販、大阪屋、栗田、日教販、太洋社の5社共同の物流基地「出版共同流通・蓮田センター」が稼働した。
 一方、「書店在庫型・取次在庫型・集配型・版元連合型」などのさまざまなインターネット書店が登場し、「客注対応型流通システム」として、一定の役割を果たしつつあり、推定販売額で見ると、01年の140億円から、02年は340億円程度と書籍の推定売上げの3・5%程度に達した。
 なかでも、アマゾン・コム・ジャパンは、和書100億円を含み売上規模200億円を達成、わずか2年で日本のサイバー書店の第一位に躍り出た。
 続いて、トーハンなどの「イーショッピングブックス」、「紀伊国屋書店BookWeb」が活況で、「bk1」などの苦戦振りが顕著になった。


©2003年 Shimomura