マルチメディアと出版の近未来


4.6  電子出版と出版流通

*流通上の問題
 私たちは主として、紙に印刷されたプリントメディアとしての本や雑誌を作り、販売する仕事に従事してきた。そして出版物は、基本的には、委託制と再販制の二つのルールで成り立っており、出版流通が多様化してきているとはいえ、全体の70%は、依然として、取次ルート、書店ルートで販売されている。
 その出版物の販売ルートの上に、書籍以外の電子商品として“ビデオ・カセット、フロッピーディスク、CD-ROM、電子ブック”などの新しい商品が流れてゆく。
 しかし、電子商品としてのビデオやカセットは一般のビデオ店やレコード店などのAV業界で売られることも多いし、パソコンのソフトとしてのFD商品はパソコンショップやソフトハウスで売れることも多いといえる。ゲームソフトなどは玩具の販売ルートで売られることも考えられる。
 出版流通になじみのない他業界の流通市場で、果たして出版と同じ流通状況、同じ販売システム、同じ取引条件が維持されるかどうか。新しい流通システムや販売システムを考えざるを得ない状況も、一方では生まれている。

*レンタルをめぐる問題
 貸レコード店舗の急増に端を発し、85年の改正で、著作権法上に公貸権(貸与権)が認められ、レコードの製作者や実演家は、レンタル業者に対し、報酬請求権を有することになっているし、この著作隣接権は、公表後50年ということで、一年間の許諾権と49年間の報酬請求権を有することになる。
 また、レコードやCDは、1992年の秋から新譜発表後2年を経過した音楽用CDやレコード類を“時限再販”として、“安売り”OKのサインが出た。すでに電子ソフトのレンタルやディスカウントセールが、一部の業界では行われており、再販制を堅持している出版界の風習には慣じまない商慣習との軋轢さえ一部の業界では生まれきている。
 再販をめぐる問題では、“本”全体が危機的な状況に追い込まれており、一部の電子商品のディスカウント商法が“本の再販制”外しの引き金になることは、業界として避けなければならない。
 戦前から“定価販売”を守り育ててきた出版界は、読者(消費者)とともに“再販制度”が、結果として、読者に良質の出版文化を“安価”に提供できるシステムであるとの対話が必要だといえる。


©1998年/2000年 Shimomura