マルチメディアと出版の近未来


3.3  DTPとのつき合い方

*印刷現場とのシステムの協調を大切に
 DTPは、単に“卓上”の上でコンピュータによる編集ができるという概念だけではない。編集者が今まで手作業で進めてきたレイアウト、校正などの編集作業全体の“本づくり”をどのように、“ディジタル化(コンピュータ化)”していくのかという思想である。
 「何を、どのように、誰が行うのか」という編集の流れを変えていかない限り成功しないといえる。
 DTPにおけるMacの使い方としては、一般的には、“版下づくりだけに使う”、“フィルム出力機能も活用する”、“画像の処理は出力センターなどの高精度スキャナーで行い、Mac上ではレイアウトのための画像表示専用のデータだけを取り扱う”、“印刷会社のもつ CEPS(トータルスキャナー)と連携し、Mac上ではレイアウトのためのデータだけを使う”、などの四つの段階が考えられる。
 よく、職場では、DTPを導入すると、組版代が要らなくなり、“速くなる”“安くなる”といった神話に近い視点で導入が計られるというが、そう単純ではない。
 編集の流れがうまくいって、印刷所屋出力センターとのシステム環境など、すべてが改善されれば、“安く”もなり“早く”もなるといえる。
 Mac導入で“便利”にはなったものの、毎晩、12時近くまで“Macと残業”というのでは、何のための“電子編集なのか”といえる。コンピュータはあくまでも、編集のための一つの道具として捉え、“人間らしい労働”というスローガンを掲げる出版労働者としては、コンピュータを使って“何を作るのか”という文化の側面からも、DTPシステムとのつき合い方を考えるべきだといえる。
 しかし、日本では、一般にタイプセッティング(組版)に関するスキル(技術)が子供の時から身についているわけではないし、デザインやレイアウトなども専門のエディトリアルデザイナが行うなど、編集全体が分業化することで、出版の仕事が成り立っているから、それを一人の編集者が、すべてDTPで行う技術としてマスターすることに無理があるといえる。
 無理やり導入することで、徹夜作業の連続になったり、システムを上手に活かしきれないで、職場のすみで“ほこり”を被ったまま放置されることもしばしばです。また、作業特性を考えないで、無理やりDTPなどのコンピュータ化を押しつけることを“テクハラ”という人もいる。
 Macの他にもさまざまな電子編集用のワークステーションが導入されており、システムの価格でいえば、100万円から2000万円程度まである。最近では、電算写植機のダウンサイジング化で、機能的にも優れた機種が目につくようになったが、いずれも編集者向きというよりは、プロ向きの小型電子組版機といえる。


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