マルチメディアと出版の近未来


2.7  開発上の問題点

*開発上の問題点
 CD-ROMや電子ブックなどの開発の問題点は、ソフトの中味によって、開発工程がかなり違うので、一概に言えないが、素材がディジタル化されていれば技術的な問題としては、周辺環境はかなり整ってきており、大手印刷所を始めディスク専門メーカーも増えてきている。
 以前では、プリマスタリング工程を経て、テスト版のCD-ROMが作られ、そのバグ(プログラムの不良箇所、バグは小さな虫の意味=虫喰い)を修正(校正)して、マスター盤が完成してプレス工程に回っていたが、今では、一度だけ書き込み可能(Write-Once)なCD-R(CD-Recordable)が開発されたことにより、簡単にテスト版が作られるようになったことと、素材を編集するオーサリングソフトの普及により、かなり簡単になってきたといえる。
 エンターテイメントソフトのように映像や音楽が中心のソフトの場合は、文字の世界と違って、いわば映画を作るような作業だといえ、一般的には、私たち編集者の苦手な部分であるが、文字中心のソフトの場合は、本の世界と共通の作業といえる。
 いずれにしても、技術的なことは専門家に相談すればよいわけだから、解決の糸口は見い出されると思えるが、「知的財産権(著作権)」をめぐる、問題と、流通上の問題が開発上の最大のネックといえる。
 一般に書店ルートを流れる本の場合は再販商品ですし、商品の出荷にしても60〜73%と正味が安定しているが、ソフトバンクなどのコンピュータ業界や家電業界などでは、ディスカウント商法が一般的であり、取引条件も限りなく50%に近い正味である。また、外税方式が基本的である。また、パソコンなどのハードシステムに予めセット販売されるバンドルソフトも増えてきている。ここでも、一般に販売価格の20%程度の正味で取り引きされることが常識であり、大量に取り引きされ、返品もないとはいえ、苦労して開発に携わってきた編集者をなげかせている現実も見受けられる。
 出版界が書店ルート以外の取引に慣れていないことが、壁になっていることもしばしばある。
 本や雑誌の場合ですと、一般に配本したあとは、新聞広告などで宣伝する以外のキャンペーンは行われないが、音楽用のCDやコンピュータの世界では、様々なイベントが行われ、そこでのセールス・プロモーション(SP)が、決定的な役割を果すことになる。データショーやエレクトロニクスショー、さらにはEP展やマック・ワールド展など対面販売に力を入れなければ、エンタテーメントソフトはヒットしないわけである。これに比べて辞典などのソフトの場合は、書店ルートが中心のようである。


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