マルチメディアと出版の近未来


2.1  マルチメディアと電子出版

*マルチメディアと電子媒体
 私たちは、コミュニケーション(思想の交換や伝達)の手段として、音声、文字、図形、身振り、手振りを含めた様々な方法を用いているが、その情報交換を行う媒体のことを一般にメディアと呼んでいる。したがって、マルチメディアとは「情報を伝達するメディアが多様になっている状態」のことを意味するが、具体的には、コンピュータなどによって電子化(ディジタル化)された音声、文字、映像などのメディアを複合して取り扱うことを意味する。
 一方、電子出版には二つの側面があり、一つは、製作工程における文字情報や画像情報の電子化のことである。ワープロやパソコンの利用、さらにはDTP(デスクトップパブリッシング)と呼ばれるシステムの利用やCTS(電算写植機)の利用まで幅広いテーマがあり、画像の方では、イメージ・スキャナやカラー・スキャナの利用まで文字と画像の電子化の急速な変化を捉える必要がある。
 もう一つの側面である「電子媒体による出版」のことも文字どおり「電子出版」と呼んでいる。
 商品の形としては、電子化された情報をフロッピー・ディスク(FD)やCD-ROM(シー・ディ・ロム)、磁気テープ、光ディスク、デジタル多用途媒体と呼ばれるDVD(ディジタル・バーサタイル・ディスク)、ICカードなどのパッケージ型電子媒体を使って出版することをさす。これらの電子媒体には、文字や図形あるいは音声の情報を複合して扱える特徴があり、「電子出版」がマルチメディアといわれるゆえんである。
 目下のところ、マルチメディアの主役は、CD-ROMと言えるので、CD-ROMを中心にお話しすることにする。
 CD-ROM(コンパクトディスクを利用した読み出し専用メモリー)は、構造的には音楽用のCDとまったく同じもので、直径12cmのアルミ盤の上に、ポリカーボネートと呼ばれる一種のプラスチック加工を施したものである。オーディオ用のCDには、そこに音声の情報を記録しているが、CD-ROMには、文字や図形の情報がレーザー光線によってピット(小さなくぼみ)として焼き付けられている。
 CD一枚の記憶が540メガバイトで、パソコン用のフロッピーの500倍、ICカードの250倍の容量を持っている。その記憶容量の大きさを情報の種類と比較すると、音楽で一時間、ナレーションで26時間、自然画で4000画面、グラフィックスで16000画面、文字数で2億7500万文字ということになり、これはA4の原稿で27万ページ、商業紙の約一年分の情報量に相当することになる(昨今では、圧縮技術の進歩により、収録情報はもっと増大している)。このような特徴から、CD-ROMは、文字情報だけでなく、音声や映像あるいはコンピュータの情報などを統合したパッケージ型マルチメディアの検索用ソフトとして注目されてきた。


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