マルチメディアと出版の近未来


1.10  インターネットと出版活動

*電子メディアとの共存共生の時代
 サイバーパブリッシングと呼ばれるインターネット出版の試みはさまざま行われているが、現在のところ、経済的規模で見る限り、インターネットは、出版活動にそう大きな変化を与えていないといえる。
 一番大きな変化は、情報の送り手と受け手の差がなくなり、ユーザー(読者)が同時に情報の発信者になったことである。しかし、今のところ、ホームページなどの情報は、便利かも知れないが、玉石混交の情報の羅列ともいえ、“熟読する情報”としては、未完成といえる。
 私たち編集者は、著者の貴重な“思想又は感情”の表現物を本や雑誌の形に仕上げる仕事をしてきたわけである。
 従って、そのコンテンツ(中味)は、著者の著作権であり、本というパッケージを発行する出版権を出版社が持つという形で出版業が成り立っているといえる。
 しかし、インターネットやパソコン通信などのオンラインによる情報の受け渡しが、当たり前になってくると、本を取次や書店を通して、読者に届けるという配送システム(デリバリ・システム)そのものが、大きな変化を受けるといえる。
 もっと極論すれば、書き手である著者が同時に情報の発信者になるわけだから、出版社も消滅してしまうとも考えられる。
 このような状況を先取りして、“本がなくなる”という議論も一部に活発で、21世紀には、インターネットなどの“オンラインメディア”や他の電子メディアに、出版・印刷という“紙メディア”あるいは“印刷メディア”が吸収されるかも知れないという“夢のインフラ”(インフラクトラクチャ=社会的基盤)を描く人もいる。
 しかし、私は、“本は生き残る”と思っている。かつて、音のメディアであるラジオが普及したときにも、また、音と映像のメディアであるテレビが普及したときも、同じように、“活字メディア”がなくなるという議論があったが、本も新聞も、りっぱに生き抜き、それぞれのメディアが、“共存共生”している。
 80年代にニューメディアが登場してきたときも、同じような事が議論された。OA(オフィス・オートメーション)革命が叫ばれたときもそうでした。ペーパーレス社会≠フ実現といわれたが、OAの普及とともに、その最終結果としてのプリントアウトが大量に増え、むしろ紙の消費量はあがっているという皮肉は結果さえある。
 また、紙が有限資材であることから電子メディアへの移行を説く人もおり、「中国などの発展途上国が、日本やアメリカなどの発展した資本主義諸国並みの紙の消費量になれば……」という議論もある。これには「もしも、自動車の普及が……」というふうに様々な推論が展開されている。
 しかし、この議論では、“紙”全体がどんな風に消費されているのかという産業全体の中で考えなければならないし、地球上のすべての資源そのものが“有限”であるといえ、木を育て、森を育て、“紙”を育てるという考え方が重要だといえるかも知れません。
 先ほど“電子メディア”との“共存共生”と言いましたが、私たちは、自然そのものと“共存共生”する道を見つけてゆかなければならないと言える。


©1998年/2000年 Shimomura