マルチメディアと出版の近未来


1.8  出版流通ビッグバン

*インターネットは、出版流通をどう変えるか出版
 書店在庫型のサイバー書店の好調に刺激されるかのように、このところ、新しいタイプのネット書店の構想が次々と発表され、にわかに「出版ビッグバン」の様相を呈してきた。
トーハンがソフトバンク、セブンイレブン、ヤフーなど四社と共同でインターネットを通じた「イー・ショッピング・ブックス=eS-Books」を設立、99年11月から、サービスを開始した。
 データベースとしては、トーハンの「本の探検隊」を利用でき、購入可能な約10万点の商品の客注品を宅配便を利用し、全国8000店のセブンイレブンの店頭で受け渡すというシステム、希望者には、自宅への宅配も受注している。開始3ヵ月で、会員数10万人を確保し、月商1億円に達するという。なお、トーハンでは、川口に新たな客注センターを稼働させ、従来の取引ルートと別システムで、新条件による書店ルートの客注を強化する。
 日販では、「本やタウン」を利用して、「単品管理」が可能な友隣堂、平安堂などの七書店と書店経由で、客注を受けてきたが、このシステムを2000年4月から、中小の50店舗に拡大、サテライト店も1000店舗に拡大した。また、5月より、「ウエブセンター」を稼働し、35万点の在庫を確保し、王子のPBセンターなどのバックアップを加え45万点の書籍の客注を24時間体制で、即日出荷する。
 図書館流通センター、日経BP、アスクルなど7社は、日本最大のネット書店「BOOK1」を2000年7月から稼働、TRCの180万点のデータベースにアクセスでき、OA関連商品の即日配達の実績を持つアスクルの配送システムとヤマト運輸の配送システムを組み合わせ、東京・大阪圏では、「午前11時までの注文は夕方7時までに配送」、原則24時間以内の配送を実現するという。
 これらの他にも、栗田出版販売の「本屋さん直行便」、三省堂書店「ブックサイト三省堂」やJR東日本の「えきねっと」などの駅キヨスクでの商品受け渡し、中小版元の「版元ドットコム」、 専門書出版の「cbook24」、TS流通共同組合の「e-bos」など、インターネットを利用したさまざまな新しいシステムが2000年4月前後に一斉に稼働した。
 長い間、「欲しい本が手に入らない」「客注品が遅い」といった読者からの要望に応えきれなかった「委託制・再販制」の下での「システム疲労」にやっと出版界が応え始めたともいえる。
 しかし、インターネットを利用した出版流通は、まだ、全流通の1%程度であり、日本の出版物の70%は、依然「取次・書店ルート」という大動脈を流れており、その基本ルートの改善なしには、真の出版流通の「流通ビッグバン」もあり得ないといえる。
 出版業界は流通改善への努力を積み重ね、大手取次はコンピュータ化すすめ、140万点もの書誌データと独自のオンラインシステムを構築し、流通改善のための配送センターも建設してきた。
 すでに出版VANも発足し、日書連(日本書店商店組合連合会)も「BIRD-NET」を構築し、書店のSA化を推進してきた。新たに、出版界は、「出版サプライチエーンマネージメントコンソーシアム」も発足させ、念願の「須坂共同倉庫」の建設も具体化され、読者を基点とした出版流通改善に足を踏み出した。
 雑誌を中心とし、多品種の新刊委託品を「安く・早く」、全国の書店に届ける「すぐれた配送システム」に加えて、一冊一冊の客注に応える「注文対応型」の配送システムが、今、求められていると言える。
 今、大手取次や大手書店のサイバー書店の多くが、独自のデータベースを構築し、140万点もの書誌データを提供しているが、読者が、今、望んでいるのは、「入手可能な書誌データ」である。
 書協(日本出版書籍協会)の 書籍検索データベース「Books」には、書協が独自に構築してきた「日本書籍総目録」の収録されている53万点の書誌データが収録されており、2000年4月より、一般公開された。この「Books」に各出版社の「新刊情報」がいち早く提供され、出版界と読者の共通のデータベースに発展することが望まれる。


©2000年 Shimomura