マルチメディアと出版の近未来


1.6  インターネットと電子モール

*デジタルコンテンツと出版
 日本におけるインターネット人口は、1800万人を数え、インターネットの商用サービス開始から、わずか5年で、世帯普及率で10%を越えた。インターネットを利用した電子商取引もこのところ、過熱気味で、「IT革命」という言葉が、世界中を駆け巡っている。ネット上の仮想商店のことを電子モールというが、出版・印刷関連の電子モールの現状を考えてみよう。
 凸版印刷では、電子書籍を供給する「コンテンツ・パラダイス」とデジタル・コンテンツをネットワークを通じて消費者に提供する「ビットウエイ」を統合し、2000年3月から、新たに「ビットウエイ・ブックス」を開始した。
 「コンテンツ・パラダイス」では、小学館や講談社など19社22点のWEBマガジンと154点の電子書籍が提供されてきたが、「ビットウエイ・ブックス」では、WEBマガジンを30本に、電子書籍を400本に増強した。
 また、課金方式としては、プロパイダの課金システムの活用とともにプリペイド方式の電子マネー「ビットウエイ」が使われる。この他に、凸版印刷では、デジタル化された出版物を読者はインターネットからダウンロードし、専用の閲覧ソフト「ブックジャケット」で本と同じように読めるサービスも提供している。
 大日本印刷では、「Cluv・D」の名称で、インターネットなどを通じてのオンライン事業を開始している。このシステムは、アドビシステムズ社(アメリカ)の「アクロバット」ソフトを利用し、PDF(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)と呼ばれる電子ファイル形式で、印刷物用に作成した文字やイラスト、画像など出版社の持つ「コンテンツ(情報の中味)」を提供するというもの。
 PDFは、読売新聞社がアトランタのオリンピックでも試用されたが、高品質のまま、情報を発信し、紙媒体やCD-ROMのような電子媒体にも提供できる文書形式で、今後、電子出版やインターネットの標準フォーマットになると期待されるもの。大日本印刷のサイトには、学習研究社や山と渓谷社などの情報がPDF形式で提供されている。
 研究社では、97年6月から、インターネット利用の辞書検索「オンライン・ディクショナリ」の有料サービスを開始した。英和・和英辞典などをインターネットを通じて利用するもので一年間の無料サービスの経験を踏まえて有料化に踏み切ったもの。課金制度の難しさから、なかなか実現しなかった、インターネット出版の先駆けとなる試みといえるが、会員制の固定料金となる。
 CD-ROMを利用した「百科事典」のマルチメディア化なども活発であるが、百科事典の情報をインターネットを使って、アクセスさせる試みも始まっている。角川書店の『東京ウオーカー』やマガジンハウスの『HANAKO』などの情報誌は、グルメ情報や娯楽情報をネット上でも紹介し、2000誌に及ぶ無料のメールマガジンを配信する『まぐまぐ』は、複数購読を含め、すでに読者登録数が200万人を超えたという。
 デジタル化された「電子書籍」をインターネット上でいち早く販売したサイトにフジオンライン系の「電子パピルス」がある。 そこには、55社から、2400点もの「電子書籍」が提供されており、一ヶ月で33万回のアクセスがあり、月平均12500冊の売上げがあるという。
 また、富田倫生氏らボランティアで運営されている電子図書館「青空文庫」は、すでに蔵書数が著作権の切れた作品を中心に約1000点が収録されており、一日に3000人がアクセスするという。
  なお、ボランティアによる「電子図書館」には、アメリカにもマイケル・ハート氏らによる「グーテンベルグ計画」があり、アメリカの独立宣言から、聖書や「ピーターパン」まで、幅広い電子書籍2000点がテキストデータの形で提供されている。
 出版社のホームページは、新刊案内などの書誌情報がほとんどで、本格的なサイバービジネスを展開するには、さまざまなビジネスモデルが必要であるが、ホームページを開設した出版社・書店の数は、1000社に及んでいると思われる。
 新潮社の「WEB新潮」は、ヒット数(ホームページにアクセスする数のこと)の増加に伴い、ホームページでの広告掲載を開始した。また、97年7月に開設された小学館の「小学館オンラインショップ」では、雑誌・コミックを除く3000点の商品を注文でき、宅配便の利用とともに小学館と契約した全国9500の書店の店頭でも商品を受け取ることができる。講談社も「Web現代」を99年6月からオープンし、ネットビジネスに参加した。また、小学館、講談社などでは、2000年3月より「iモード」によるサービスも開始している。多くの中小の版元でも、インターネットでの本の注文を開始、宅配便によるサービスなどを開設させた。
インターネット上での通信販売が成功したとしても、現在のところ、電子決済システムが確立していないため、現金のやり取りは、郵便為替や現金書留などや、代金込みの宅急便が使われている。


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