出版メディアパル(Murapal通信)


出版の現場から

一人出版社 出版メディアパルの舞台裏

小さな出版社の夢と本の未来を考える旅

出版メディアパル編集長 下村昭夫

第一部 出版メディアパルの3年

■小出版なれども夢膨らむ
 2002年11月29日で「定年退職」となり、「出版技術講座」(出版労連)の「さようなら講演=本と編集者の世界」を新しい出発の日と定め、41年間勤めたオーム社から、旅立ちました。
 愛読誌でもあった月刊雑誌『新電気』と共に歩んだ41年間の本づくりと編集生活。
 労働組合の自主講座「本の学校=出版技術講座」を通して、次世代に「本づくりの心と技」を伝え続けた22年間でした。
 退職と同時に、出版メディアパルを設立し、出版学会や出版技術講座の運営の中で考えてきた「出版研究」を続けるために、「本の未来を考える=出版メディアパル」という小冊子を発行し、「出版への夢をはぐくむ」準備を始めた。
 定年後、4ヵ月後の2003年4月1日を出版メディアパルの本格的なスタートの日と定め、「本の未来を考える旅」に船出した。

■03年発行の「出版メディアパル」シリーズ
 サン・ジョルディの日に発行した最初のブックレット出版メディアパルNo.1『本づくりこれだけは』は、出版ビジネススクールの「基本/本づくり講座」の講演レジメをそのまま本の形にすることから生まれた。
 出版学会の春季研究発表会を記念して発行した二冊目のブックレット出版メディアパルNo.2『絵でみる出版産業』は、2年間、夢中になって続けてきた産業研究のリポートとして発行した。
 初版わずか300部の小部数出版、セミナーなどのテキストとして、一年がかりで販売するつもりが、『新文化』や『出版ニュース』に紹介されてから、変化が起きた。書店や取次からも注文が入り始め、一気に1000部を超える反響となった。
 どうしょうかと悩んでいるときに、「小林一博さんを偲ぶ会」の案内状をいただいた。差出人が地方・小出版流通センターの社長・川上賢一さんだった。
 出席の返事とともに、ささやかながら「出版メディアパル」の発行を始めたことを伝え、取引をお願いした。
 そのブックレットも三冊目となり、書店の店頭で、読者のみなさんから、愛されるシリーズとするため、前二冊のB5判・32ページから、A5判・88ページのカバー付きのブックレットへとリニューアルした。
 テーマは、出版メディアパルNo.3『出版の近未来』。サブタイトルを「その夢と現実と出版再生への道」とした。
 「出版産業の現状と課題/デジタルコンテンツと出版の近未来/ネット時代の著作権法と出版者の権利/情報のデジタル化と編集術の変化/本と編集者の世界」。
 五つのテーマから、情報のデジタル化の影響と紙の本の近未来を考え続けてきたリポート集である。
この本は、日本エディタースクールの「出版概論」のテキストとして使用しているが、「本への想い」を読者の皆さんと共有できれば幸いである。

■04年発行の「出版メディアパル」シリーズ
 04年4月には、No.2の「本づくりこれだけは」が、エディタースクールなどの「本づくり講座」でのテキストに採用していただけたこともこともあり、全面的にリニューアルし、テキストとしての充実化を図り、出版メディアパルNo.4『本づくりこれだけは(改訂新版)』とした。
「本づくり/雑誌づくり/電子編集/カラー印刷/著作権の基礎知識」などをやさしく解説した。
同時に、冊子版の『本づくりこれだけは』の講義内容に対応した『ビデオ版/本づくりこれだけは』も発行した。
 04年11月には、『毎日新聞』メディア欄コラムに2年間連載してきた「出版ウォッチング」をまとめ、出版メディアパルNo.5『出版ウォッチング』として発行した。

■新装版『棚の生理学』シリーズの刊行
 順調に歩み始めた出版メディアパルシリーズを発行しながら、どうしてもよみがえらせたい本があった。
 元・オーム社書店の先輩である下村彦四郎氏が、私家本として40年前に発行した三巻の書籍販売の先駆的な実務入門書『棚の生理学』シリーズである。
 一冊目が1965年発行の『書店はどうすればよいのか』、二冊目が 1966年発行の『書店の人と商品をどうするか』である。 そして、シリーズの総まとめてとして、1970年に発行されたのが、『棚の生理学』である。
 『棚の生理学』シリーズ三部作に描かれたメッセージを改めて読むと、40年前に書かれた販売術であるが、下村彦四郎氏の描いた「書店のあり方」は、現在の書店の実情に相通じることが多く、学ぶべき点もまた多いことに驚かされる。未来を予見したその卓越した販売実務学を現在の書店人にお贈りしたい。

■05年発行の「出版メディアパル」シリーズ
 本と出版の基礎学を中心に4冊の出版メディアパルシリーズを発行してきたが、05年からは、幅広いテーマで、出版学の探求を進めることにした。
 05年3月に、出版メディアパルNo.6『発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷―出版年表』を刊行した。執筆者の橋本健午氏は、「有害図書と青少年保護問題」などの著書もあり、明治以降140年の表現の自由と言論抑制の歴史を年表としてまとめていただいた。
 05年8月には、ニューヨークで活躍する34の元気な独立系書店の夢と現実を紹介した出版メディアパルNo.7 『ニューヨークの書店ガイド』を発行した。
 本書は、『新文化』3年間にわたり連載されてきた「ニューヨークの街角から」をまとめたもので、著者の前田直子さん(講談社アメリカ)と編者の大久保徹也さん(集英社・雑誌販売部)のお二人のよる共同取材が実ったもの。
 05年11月には、出版メディアパルNo.8 『7つの黄金ルールでだれでもベストセラーは出せる!』を発行した。
 この本も『新文化』に連載された吉田浩さん(天才工場工場長)の「天才吉田のオモシロ企画道場」をまとめた本である。
 05年12月には、出版メディアパルNo.9 『編集者のためのInDesign入門』(高田信夫著)を発行した。本格的なWindowsDTP時代に備える編集者の必需品となれば幸いである。
 なお、書店の実務書シリーズとして、05年4月には、『本と読者をつなぐ知恵』(能勢仁著)を発行した。また、05年5月には、DTPの入門書として、『本づくりの厨房(KITCHEN)から』(秋田公士著)を発行した。この本は、著者の秋田さんが、DTP組版もカバーや帯のデザインも完成させたDTPの実務書である。

■06年発行の「出版メディアパル」シリーズ
 06年4月、出版メディアパルシリーズNo.10『韓国の出版事情』(舘野ル・文ヨンジュ 共著)を発行した。
本書の構成は「出版産業」「出版流通」「出版団体」「読書環境」「出版教育」「出版と文化」の6章からなり、最後に「資料編」を収録した。
 執筆者の一人舘野さんは、長い間、日本と韓国の出版界の橋渡しの仕事をされてきた文筆家。
一方、文ヨンジュさんは、上智大学の新聞学科で、「日本のおける出版教育の分析」で博士号を取得された韓国出版学会の若手研究家。
 お二人の協力で、日本で初めて、韓国の出版界の入門ガイドを読者の皆さんへお贈りできることになった。
小さな試みながら、日韓の出版交流の懸け橋になれれば幸いである。
 06年10月には、蔡星慧(チェソンヘ)さんの『出版産業の変遷と書籍出版流通』を発行した。この本は、文ヨンジュさんに続いて、上智大学の新聞学科で、博士号を取得された出版研究家の蔡星慧の博士論文を加筆修正のうえ、実務書として発行した書籍である。140年に及ぶ出版産業のあゆみが凝縮されており、読み応えのある実務書となった。
 なお、本書は、2007年5月に開催された日本出版学会・総会で、2006年度の「日本出版学会・奨励賞」を受賞にした。
 続いて、06年11月には、『ダイヤグラムス 本の環境』を発行した。この本は、装幀家の道吉 剛さんが、10年がかりの研究成果を80枚のダイヤグラムス(図表)にまとめたもの。恐らく、世界的にみても、本の世界をこんなに見事な図版にまとめた本はないといえる。


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© Shimomura Teruo