ようこそ出版メディアパルへ


出版研究ノート

マスメディアと出版を考える

日本におけるマスメディアの現状(2) 放送

出版メディアパル編集長 下村昭夫

第2回

 前回の「新聞」に続き、今月号では、「放送」の現状と課題を考えてみよう

2. 日本のおける放送メディアの現状

1.NHK(公共放送)
 図5は、情報通信機器の世帯普及率を表したものある(出所:「情報通信白書」、内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査」)。カラーテレビの世帯普及率は、1970年代の半ばには95%を超え、2005年には99.8%に達しており、携帯電話85.3%、パソコン68.3%、DVDプレーヤー・レコーダー61.1%、ビデオカメラの40.2%を大きく上回っている。また、一所帯あたりの所有台数は、カラーテレビ2.5台、携帯電話1.9台、パソコン1.0台、DVDプレーヤー・レコーダー0.9台、ビデオカメラ0.7台となっている。

 NHKの2005年の契約受信数は、3751万件でその内わけは、カラー受信契約で2461万件、衛星放送で1253万件などとなっており、その事業収入は、6343億円となっており、その事業収入の98%は、国民からの受信料収入である(図6 NHKの放送受信契約数、出所:2006年版『情報通信白書』)。

 NHKは、地上波で総合テレビ(アナログ・デジタル)及びラジオ(第1・第2・FM)の7チャンネル、衛星放送では、BS1(デジタル・アナログ)、BS2(デジタル・アナログ)及びハイビジョン(デジタル・アナログ)の6チャンネルを有する世界最大級の公共テレビである。
NHKの事業内容は、放送法で決められており、民間放送のような広告放送は禁じられている。また、受信料は、サービスの対価として支払われる有料放送とは違い、受信機の設置に対して化せられる負担金としての性格を持っている。

2.民間放送
 一方、民間放送は、スポンサー企業からの広告収入に依存している。また、NHKが全国放送事業体であるのに対し、民間放送は、東京・大阪(近畿)・名古屋(中京)の三大広域圏や一部の県を除き、原則的として、県単位の放送エリア(放送免許)となっている。
 これらのローカルエリア局は、地方文化・地方情報の発信局であると同時に、全国放送を行うために、東京エリアのキー局を中心に「取材・広告・番組制作」などで協力し合っており、東京エリアキー局を中心に5系列に分かれている。
 日本テレビ系列30局、TBS系列28局、フジテレビ系列FNN28局、テレビ朝日系列26局、テレビ東京系列TXN6局、独立U局13局となり、総計127局が民間放送連盟に加盟している。また、東京キー局は、新聞資本系列に分かれており、日本テレビは読売新聞系列、TBSは毎日新聞系列、フジテレビは産経新聞系列、テレビ朝日は朝日新聞系列、テレビ東京は日経新聞系列となっている。
 2005年現在、地上波の民間ラジオ放送局は193社あり、うち、テレビと中波のラジオ局の両方の事業体が35社、テレビだけの事業体が92社、ラジオだけの事業体が66社となっており、市町村体の放送エリアを持つ、ローカルFM放送局が117社ある。
 各地区ごとの放送局の数は、県単位の地区で1〜5局と9割以上の県で4局以上の放送が楽しめ、中波ラジオ1〜2局、FMラジオ1〜2局がある。地上波の短波を用いた全国放送に日経ラジオがある。
 日本民間放送連盟の『日本民間放送年鑑』によると、2004年度の総事業収入2兆5985億円の内わけは、テレビ事業収入が2兆2203億円(85%)、ラジオ放送収入1960億円(8%)、放送以外の事業収入1933億円(7%)となっている(図7参照)。

3.有料のBS放送とCS放送
 NHK以外の衛星放送を使った民間のBS放送や通信放送を使ったCS放送は、電波にスクランブル(暗号化)を掛けることで、視聴者契約を結び、有料放送を行っている。
 1991年に放送を開始したスクランブル方式のWOWOWは、アナログ・デジタルの両加盟者数が2006年3月時点で239万人になり、2004年の事業収入が639億円になっている。また、多チャンネル型のCATVテレビ事業者やCS放送事業者45社の中には、有料収入のほかに広告収入を得ている事業者も多く、CATV事業者が3533億円、CS放送事業者が2346億円、BSデジタル5社が181億円(広告収入のみ)となっており、有料放送の総事業収入は6263億円となり、NHKの事業収入と肩を並べている。この総事業収入に民間の地上事業収入2兆3656億円とNHKの総事業収入6854億円を加えた放送事業の総産業規模は3億7209億円と推定される。
 CATVは、地上波テレビの難視聴対策として始まったが、現在では、都市型CATVとして、自主放送や衛星放送の再送信を行うなど多チャンネル化で1913万人の加入者を得、世帯普及率でも38.0%に達している。また。CATVの施設を利用したインターネット接続サービスやIP電話など、放送と通信の融合化を図った総合サービスにも積極的な展開を見せている。なお、図8は各サービスごとの加入者数を示す。

4.急速に進む放送のデジタル化
 いま、日本の放送事業は、そのデジタル化の進展で、大きな変化し始めている。すでに2003年には、東京・大阪・名古屋の三大広域エリアで地上波を使ったデジタルテレビが開始しており、全国に放送エリアを拡大している。2011年7月24日には、従来のアナログ方式のテレビ放送は、50年の歴史(ラジオは80年の歴史)に幕を下ろすことになる。CATVや衛星を利用した放送は、すでにデジタル化が進んでおり、地上波のラジオもデジタル化に踏み切っている。
放送のデジタル化は、世界的な流れであり、発展した資本主義国を中心に急速なデジタル化が進められているが、デジタル化による「高品質なきれい画像」や双方向サービスが、必ずしも国民の期待にこたえる基幹メディアとしてのテレビに役割の基盤となるものではない。
国民の期待に応えるためのジャーナリズムの役割をしっかりと果たし、社会の動向を継続的に報道し、権力の横暴を許さない「監視役」として、視聴者とともに歩む姿勢こそ、いま、求められているといえよよう。

このページの著作権はすべて出版メディアパル編集長 下村昭夫が保持しています。
© Shimomura Teruo