渦(出版界の内と外)


1.9   2001年度の出版統計

花 子予想されたこととはいえ、2001年度の出版の売上げは、一段と厳しい状況だわね。
太 郎
書籍・雑誌合わせた産業全体で、対前年比3.0%減の2兆3250億円、書籍が2.6%減の9456億円で5年連続のマイナス成長、雑誌が3.3%減の1兆3794億円で4年連続のマイナス成長となった。
花 子
経済環境を見ても実収入の低下や失業率の増加など、いい条件はなかったし、景気を引っ張ってきたIT関連も停滞気味だし、不況感はいっそう強まったわね。
太 郎
話題といえば、「ハリーポッタシリーズ」の既刊3書の一年間の合計が720万部(三月までの累計で1200万部)、137億円を超え、「チーズはどこへ消えた」などの翻訳書が好調だったことぐらいだね。
また一方では、低価格志向に対応するため、新書や文庫の新シリーズも活発化したとはいえ、一部の例を除き読者の反応は冷ややかだったといえる。
花 子
でも新刊の発行点数69003点と昨年に続き、増加したんでしょう。
太 郎
新刊点数増加させても、一点あたりの売れ行きは停滞気味、ますます販売効率を悪化させているといえ、トータルの売れ行きの減少を新刊点数の増加でカバーするという悪循環とも言える状況が一段と強まったといえるね。厳しい送本規制で書籍の返品率は0.3ポイント減少したとはいえ、依然39.1%と高い返品率を示している。
花 子雑誌の方は、昨年の5月から、「雑誌作成上の留意事項」が緩和され、バッグやマウスパットや女性向きのさまざまな付録が話題を呼んでいたわね。
太 郎話題を呼んだ割には、付録を付けなかった月の販売が振るわず、トータルでは厳しい結果となった。定期購読への傾向が弱まり、必要な月だけ雑誌を購入する傾向が強まったといえる。販売金額だけでなく、推定販売部数で見ると、32億8615億冊と3.5%減で、6年連続のマイナスとなった。
花 子ムックや増刊・別冊などの不定期誌も増加したわね。
太 郎ムックは、昨年より641点も多く、8007点発行されており、本来は、定期雑誌の不振をムックでカバーする目的で発行されていたのだが、そのムックの不振が定期雑誌の不信の足を引っ張るという悪循環に陥っている。
花 子そのムックの編集をコスト軽減のため、プロダクションに依存する傾向が強まっているんでしょう。
太 郎そうだね。アウトソーシング化に拍車がかかり、プロダクションで働く人たちの一層の労働条件の悪化となり、生産性が高まる一方で、質の低下を招いていると懸念も強まっている。
花 子それなりに時代を象徴してきた「週刊宝石」や「フォーカス」も休刊したわね。
太 郎休刊点数は、昨年より、35点多い170点、うち創刊3年以内の雑誌が65点と全体の4割を占め、マーケットの狭さと競合で短命に終わるケースが増加した。また、創刊誌は167点を数えた。
花 子先日、太郎さんからいただいた「戦前・戦後の出版年表」見ながら、出版界が歩んできた道を考えてきたんだけど、学ぶことが多いわね。
太 郎そうだね。どんな時代を見ても、時代を切り拓く編集者が生まれ、「本の未来」と「編集者の世界」を作ってきたんだから、その苦難さから見れば、今はまだ恵まれた出版環境だといえるね。
花 子そうだわね。「可能性が花開く時代」でもあるのだから、夢と現実の狭間の中で、みんなでがんばることが大切なのね。


©2002年 Shimomura