1.6 本の定価のメカニズム
花 子 | 本の定価決定の仕組みはどうなっているの? |
太 郎 | 本のコストを分析すると、直接費と間接費に分けられていることは知っているね。 |
花 子 | 本の製造に必要な費用が直接費で、販売費や管理費などが間接費だったわね。 |
太 郎 | 直接費の中には、固定費(部数に関係なくかかる費用)として、組版代、製版代、図版代、装丁代や編集・校正費などがあり、変動費(部数にほぼ比例してかかる費用)として印刷費、製本費やその他の材料費などがある。 |
花 子 | 印税や原稿料も直接費に含まれるわね。 |
太 郎 | 間接費の中には、販売費、宣伝費、倉庫料、運送費などがあり、その他の間接費として、人件費や事務費などのさまざまな諸経費が計上される。 |
花 子 | でも、それらの費用を一冊あたりに計算するのは難しいわね。 |
太 郎 | そこで、本の定価(ここでは本体価格のこと)は、見積りコストに相当する直接製造原価を基準に一般的には考えられているんだよ。ちょっと古い資料で恐縮だけど、1978年の公正取引委員会の調査資料によると、直接製造原価の2.45倍が、平均的な定価付けとなっている。 |
花 子 | 定価の約40%が直接製造原価ということね。流通マージンはどうなっているの? |
太 郎 | 今、仮に、本体価格1000円の本を考えると、版元の卸値が700円、取次のマージンが本体価格の8%程度だから、書店への卸値は780円ということになるね(取次の仕入正味と出し正味で考えるとマージンは11%程度となる)。 |
花 子 | 書店の平均マージンは、22%ということね。 |
太 郎 | しかし、その中から、書店は人件費を含む販売経費を負担するわけで、書店の平均利益率は0.5%程度とたいへん厳しい状況になっている。 |
花 子 | しかし、流通マージンを改善するにも版元の側もぎりぎりの定価設定になっていて出来ないわけね。 |
太 郎 | 再販制の下で、低いながらもマージンが一定していたからこそ、値引き競争に巻きもまれないで出版界全体が成り立ってきたわけだね。 |
花 子 | 諸外国ではどんな状況なの? |
太 郎 | くわしいデータの裏付けはないが、大幅な値引きに応じられる背景には、当然のことながら、大幅な流通マージンが確保されているということになるね。そうすると、定価決定のしくみにも当然大きな変化が起こり、少なくとも直接製造原価の4〜5倍の定価設定ということになるね。 |
花 子 | つまりは、見かけ上の定価が大幅に上がり、かえって消費者の利益が損なわれると言うわけね。 |
©2002年 Shimomura