出版メディアパル(Murapal通信)


1.3  インターネットとメデイア犯罪

 インターネットの爆発的な普及とともに、インターネットメディアをめぐるさまざまな「トラブル・事故・犯罪」も、また、多発してきた。
 そしてそのトラブルの多くは、いままでに経験したことのない多様な問題点を含んでおり、今日の時点で、その問題点を整理し、電子メディアやインターネットの発展が人々の社会的生活と出版メディアに与える影響を考察することにしたい。

T.インターネットと著作権トラブル
 (1)リンクとフレーム構造
 インターネットが新しい通信システムとして、世界中に発展した要因の一つに「オープンURL」がある。簡単なアドレスを登録することで、世界中に通信できる機能である。今ひとつ、ホームページなどに、そのアドレスへのリンクを貼ることで、自由にWeb上のネット・サフィーンが可能になることである。
 リンクを貼ることは自由に行えるが、L字型のフレーム構造(枠組み)のWebページに、「許可なく他人のWebページへのリンクを貼り、他人の著作物であるWebページを取り入れる行為」は違法な複製となる。この場合、リンクを貼ったページが「他の独立した新しいページ」になるように工夫することが大切である。
 (2)デジタル原稿の電子メディアへの流用
 電子メディアの特徴の一つは、その複製が簡単に行えることである。雑誌や書籍に掲載された原稿の電子データを再加工して、Webページなどに流用することが、昨今では多く見られるようになった。雑誌の原稿は、「買い取り原稿」と思い込んでいる誤解が出版界には多く存在するが、雑誌への掲載は、特に定めのない限り、一回だけの「優先的な掲載契約」となる。
 この場合、たとえ、雑誌の掲載記事であったとしても「Webペ−ジ」に再利用するためには、著作者の許諾を得るべきである。
 (3)違法な複製とネット配信
インターネットに提供されている多くの情報は、無料で公開されている。このことから、他人のホームページから、安易にコピーして「新たな原稿」にする行為がしばしば問題になる。もちろん、「私的な利用でのコピー」は合法であるが、無料で提供されている個々のホームページの「著作権はリザーブ(保留)」されていると考えるべきである。
 もちろん、違法に複製された電子情報をインターネット上で、配信する行為は、「複製権」の違反、並びに「公衆送信化権」の違反になる。また、アメリカのナップスターの例に見られるような「ファイル交換システム」による電子情報の交換も「許諾を得ていないもの」は違法になる。

U.インターネットビジネスとさまざまなトラブル
 (1)インターネットと通信の自由
 インターネットの書き込みページなどで、会員同士のフレーム(燃え上がる炎の意)がしばしば起こることがある。事件に発展した例にパソコン通信の掲示板でのフレームが名誉毀損で訴えられた「シスオペ事件」がある。一審の東京地裁の判決では、当事者とともに、プロパイダーの管理責任が問われた。二審では、「議論の積み重ねによって、質を高める運営に努力してきた」点を考慮され、プロパイダーの管理責任は免除された。
 フレーム事件だけでなく、「プライバシーの保護とプロパイダの責任」「セクハラ」「誹謗・中傷」「少年犯罪と実名写真報道」「ネット・オークションとネット取引」「中古ソフトと頒布権」「個人情報保護法と通信傍受法」「不正アクセスと情報の改ざん」「風営法と児童ポルノ配信」など多くの事件が起こり、インターネットという新しい通信メディアを利用した犯罪に対抗するために多くの規制の網の目が掛けられてきた。
 インターネットのプロパイダーに、仮に「一定の管理責任」があるとしても、「コモンキャリヤー」(配送業者)を罰するという方法では、「通信の自由」は保障されないことになる。

 (2)著作権保護と法による規制
 最後に、インターネット時代のトラブルを解決するためのいくつかの新技術とその可能性を考察することにしたい。
 デジタルコンテンツの利点としては、「複製が簡単である.大量の配信が出来る.更新情報がすぐに作れる。検索性に富む」などさまざまあるが、その反面、「見やすい電子ビューワーがない。著作権上の問題がある。安定した課金システムが開発されていない」などと問題点も多い。
 e-Bookの電子ビューワーとしては、「電子ブック」などに加え、マイクロソフトのe-Bookリーダーとアドビ・アクロバットによる電子書籍の閲覧ソフトが新たに登場してきたことになるが、そのメディアごとの仕様に左右され、汎用性のあるe-Book用の電子ビューワーになりえない。だとしたら、それらの電子ビューワーソフトは、インターネット上で、無料配布され、e-Bookの読書環境が整わない限り、新しいデジタルコンテンツの普及は、遠い夢に終わるといえよう。

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 昨今では、「コンピュータウイルスや不正アクセス・不正コピー」、「Web攻撃やハイテク犯罪」が多発しており、社会問題となっており、犯罪・セキュリティを巡る課題も多い。インターネット配信を巡る著作権法の改正、ビジネスモデル特許を巡るアメリカの動き、不正競争防止法の改正など法律上の新しい考え方と、風営法の改正以来、増加している有害情報の取締の強化や「個人情報保護法」「有事関連法」や「青少年有害社会環境対策基本法」「サイバー犯罪条約」など新しいメディア規制法の制定や、「言論・表現の自由」を巡る課題にも留意したい。
 インターネットは誰にも規制されない「ユーザーによるユーザーのための自由なメディア」として発展してきた。これらの規制法が、その発展の原動力である「通信の自由・表現の自由」の足かせにならないこと願って止まない。


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