出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(6月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、2004年6月掲載分をご紹介する。

(26)出版学と科学的分析 (2004年6月8日号)
 出版産業の現状、出版流通制度、出版業の実情など、出版に興味をもつものなら、関心の深いデータや図版を一冊にまとめた『白書 出版産業』(文化通信社、定価2625円)が発行された。
 編者は、日本出版学会、執筆者は、日本出版学会に所属する第一線の研究者・実務者である。
 「第1章出版産業の姿」「第2章出版社」「第3章取次」「第4章書店」「第5章図書館」「第6章著者・読者」「第7章出版と法規」「第8章出版物の種類」「第9章国際」「第10章関連産業」「付録:出版産業年表」と、興味あるテーマ79項目が、見開き2ページで的確に解説され、データとチャートで読む日本の出版研究の百科事典となっている。
 本書の編纂の責任者の一人である日本出版学会会長の植田康夫氏(上智大学新聞学科教授)は、『出版学というとこれまで、「文化論的」な響きを持ってきましたが、現実社会のなかでそれを実現している出版産業を、定量的に分析しなければ出版全体はみえないはずです。今回、産業という視点を全面に打ち出したことは、出版を「科学的」に捉えるという出版学の基本になると思います。』と本書の発行の意義を強調している。
 従来、出版産業の統計的分析資料としては、出版科学研究所の『出版指標年報』や出版ニュース社の『出版年鑑』があり、毎年の出版産業分析の礎となってきたが、専門書であり、一般の読者の目にふれる機会が少なかった。本書が、90年代以降の20年間の出版産業を分析をした読み物として、出版界と読者の懸け橋になってほしいと望むものである。



(27)動き出す貸与権ビジネス (2004年6月29日号)
 書籍や雑誌の公衆への提供に対する「貸与権の適用」やアジアなどからの安価な「邦楽CDの逆輸入」の防止処置などを主とした著作権改正案が6月3日衆議院を通過・成立、2005年1月から、施行の運びとなった。
 「貸与権連絡協議会」(21世紀のコミック作家の著作権を考える会、日本ペンクラブ、日本書籍出版協会、日本雑誌協会などの関連団体)が中心となった運動がやっと実ったといえる。
同協議会の藤子不二雄○A代表は、『「作家の努力の成果が作家に正しく還元される仕組みを作る」このシンプルな主張を、多くの方が支持し、励ましてくださったことに勇気付けられた。』と本や雑誌に対する貸与権が獲得されたことを歓迎するコメントを発表した。
 今後、出版業界は、ビデオ・CDレンタル店の業界団体である「日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)」を交渉団体として、レンタルブック店の「貸出し猶予期間の設定」や「許諾料金」などについての「貸与権ビジネス」の基本スキームの確立を急ぐことになる。
 なお、7月に設立が予定されている「出版物貸与権管理センター」では、代行業者を通じて、レンタルブック店とレンタル業務契約を結び、許諾料を徴収、出版社から、著作者への許諾料の分配をビジネスモデルとして想定している。
 「貸与権が成立」したとはいえ、今後、レンタルコミックを中心とする新しいビジネスモデルがどんな発展を遂げるのか、動き出した貸与権ビジネスの近未来像はまだ見えてこない。


©2004年 Shimomura