出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(4月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、2004年4月掲載分をご紹介する。

(23)表現の自由とプライバシー 2004年4月6日号)
 『週刊文春』(3月25日号)の出版差し止め問題を固唾をのんで、見守った報道関係者が多かったが、論じられている「表現の自由」と「プライバシーの擁護」というテーマの重さの対象となっている「当該記事の軽さに」ギャップを感じている人も多くいた。
 30年前、立花隆氏の「田中角栄研究 ― その金脈と人脈」を掲載し、田中内閣を崩壊させるきっかけを作ったのが、『文藝春秋』である。
 ある意味では、雑誌ジャーナリズムの本領を発揮し続けた出版社の一つと評価するのは、私一人ではないはずである。
 同時に、『週刊文春』を含む雑誌ジャーナリズムが、しばしば、公共性あるいは「知る権利」を振りかざし、個人のプラーバシーを侵害し、名誉毀損に問われる逸脱も繰り返してきた。
 週刊誌の世界に、政治家のプライバシーは「書き得」という風潮があり、その「粗暴さ」が生んだ、事前検閲に等しい「出版差し止め」という、余りにも重い東京地裁の「仮処分命令」だったのではないか。
 文藝春秋は、東京高裁の「出版差し止め命令の取り消し」決定を受け、『我が国における「表現の自由」が崩壊の瀬戸際で守られた」とコメントした。しかし、その「勝利?」を喜ぶ前に、『雑誌編集倫理綱領』が掲げる「真実を正確に伝え、記事に採り上げられた人の名誉やプライバシーをみだりに損なうような内容であってはならない」という人権と名誉尊重の精神を考え合ってみたい。



(22)本づくりの心と技 (2004年4月20日号)
 出版における職能教育の草分けともいえる日本エディタースクールの講師交流会に出席した。
 製本業を営むある講師から「今日も50人の従業員が休日出勤しています。とある出版社の本の一部が刷り直しとなり、製本をやり直しているからです。本づくりの基礎知識と技術を教えておられる先生方から、次世代の編集者たちに、ぜひ、この状況を伝えていただいて、間違いのない編集技術を伝授していただきたい」との訴えがあった。
 コンピュータを駆使した電子編集が主流の今日、従来では考えられなかった新しいタイプのさまざまなトラブルが発生し、印刷・製本をやり直すことがある。
 その要因の一つに、編集プロダクションなどへの外部委託が増大しており、出版社の編集現場で、長年、培われてきた「本づくりの基本や校正技術」が忘れられ、基礎教育が不足している点があげられる。
 出版社各社でも一定の社内教育が行われ、日本書籍出版協会など経営者団体での初心者教育も行われている。
 市中の出版ビジネススクールなどでの実務教育や「本の会」や日本ジャーナリスト会議の「出版フォーラム」などの啓蒙教育も活発である。
 毎年5月に開講される出版労連の「本の学校=出版技術講座」も、編集現場を支える出版労働者の自主講座として開催されている。
 もちろん、本づくりの基本は、企画にあるが、「本づくりの心と技」を忘れて、出版の未来を語ることはできない。


©2004年 Shimomura