出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(12月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、12月掲載分をご紹介する。

(17)オン・デマンド出版 (2003年12月11日号)
 発行されてから、何年かあとに、本を注文すると、「品切れ」ですという返事が戻ってきて困ることがある。
 書籍の発行は、一冊あたりのコストと採算点の関係上、一定の部数以上でないと、増刷(重版)することできないからである。そんなとき、出版社の側は、「絶版(ぜっぱん)」といわずに、たいていの場合は、「品切れ」ですと表現することが多い。
 大手取次のデータによると、品切れ・絶版による事故伝票は、一年間に20万件も発生し、そのうち、復刻需要の強い専門書の予測は3万点程度あると見られている。
 仮に、3万点の本の平均価格を2000円とし、年間40冊ずつ需要があったとしたら、24億円の売り損じがあったことになる。
たった一冊の注文にも応じられる印刷システム「オン・デマンド出版」が開発され、貴重な文化財が、蘇り始めている。オン・デマンドとは、「需要があったとき」いう意味である。
 日販の「ブッキング」、トーハンや凸版印刷の「デジタルパブリッシングサービス」、紀伊国屋書店・富士ゼロックスなどの学術書の復刻本を提供する「電写本」などが、オン・デマンド出版会社して、事業展開している。
 また、品切れ・絶版本でなく、最初から、オン・デマンド出版を試みている大日本印刷などの「HONCO叢書」もある。
 コンピュータや印刷の新技術の発展が小部数での専門書の発行を維持できるシステムとなれば、また、新しい出版の試みが増えてゆくであろう。



(番外編)本とグーテンベルク (なお、本文は未掲載原稿です)
 人と本との出会いには、さまざまな物語がある。時には、それは、お母さんに読んでもらった「童話」であったり、先生が読み聞かせてくれた「冒険小説」であったり、誕生日にもらった「詩集」であったりする。
 今、出版は、さまざまな電子メディアの登場により、「グーテンベルク以来の大変化」を受けているといわれている。
 将来、“紙の本” は無くなり、“電子本” に置き換えられると “本の未来” を予測する記事にもたびたびお目にかかる。

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 グーテンベルクが、ぶどう搾り機にヒントを得、活版印刷機を発明し、印刷術を完成させたのが一四五二年頃といわれており、印刷機のことをプレスというのは、このことに由来する。
 印刷機の完成だけでなく、一四五〇年ごろに、「鋳型と母型の材料にくふうを加え、大量の活字の鋳造に成功したこと」「鉛の活字を組み合わせて、締め付けて版を完成させたこと」「版の上に紙を置き、上からプレスすることで、両面印刷を可能にしたこと」「鉛の活字に適した油性ワニスで練ったインキを完成させたこと」など、その当時のさまざまな技術を組み合わせて、グーテンベルクは、活版印刷術を完成させたと考えられている。
 ヨハン・グーテンベルクは、 ドイツのマインツで貴族の家に生まれたといわれているが、その生年や生涯については不明な点も多く、活版印刷の発明者を巡っても諸説あり、オランダ、フランス、ドイツ、イタリアなど各地で、活字を用いた印刷術が研究されており、グーテンベルクもその一人に過ぎないともいえる。
 ともあれ、その印刷術の確立とともに“紙の本”と人の出会いも始まった。


©2003年 Shimomura