出版メディアパル(Murapal通信)


毎日新聞メディア欄連載「出版ウォッチング」(9月号)

 2003年4月から「毎日新聞のメディア欄」(隔週の火曜日発行号)に「出版ウォッチング」を連載することになった。このページでは、4月以降に掲載された「出版ウォッチング」月ごとにご紹介することにする。
出版メディアパル編集長 下 村 昭 夫

 著者と読者の皆さんの架け橋として本を生み出している出版界の「こぼれ話」を月2回・隔週の火曜日の連載で、ご紹介することとなった。ここでは、9月掲載分をご紹介する。

(11)新古書店と貸本 (2003年9月09日号)
 新古書店の実態は、明らかでないが、全国で約2000店、年間の推定売り上げで、1000億円(定価換算で2200億円)程度と想定される。
 しかしながら、その利益が、「出版社や著者に還元される」ことはない。
 6年連続のマイナス成長下で苦しむ出版界を尻目に「わが世の春」を誇っている新古書店のビジネスモデル。この商法、定価販売制度(再販制度)を基本とする出版界に寄生する「パラサイト商法」と批判されてはいても、中古本を「購入したり、販売したりする行為」になんら違法性はない。「不況下で苦しむ消費者のニーズを捉えている」ともいえる。
 問題があるとすれば、新古書店の出店地域の本屋さんでの「万引き率が高まっている」と調査報告されていることである。
簡単に「換金出来る新古書店」の登場により、換金目的での万引が増加し、新古書店が、子どもたちを含めた「万引の温床」になっているとすれば、その「仕入れ方法」に厳しい規制が求められるのは当然のことである。
 新古書店業界では、ブックオフ、フォー・ユー、テイツーなどで、リサイクルブックストア協議会を設立。「万引き問題への対処」や「新人作家育成のための基金を設立し、若手漫画家の育成を支援する」などと表明し、「何らかの形で出版界への還元を考えている」とのことであるが、今のところ、その具体案は、明らかにされていない。
 加えて、その新古書店が、コミックや新刊書などを貸し出しする「レンタルコミック店」を併設、新事業に乗り出した。
 2泊3日で「一冊50円程度」で、コミックを貸し出す新商法に、「私の本を勝手に貸し出さないでください」と作家さんたちと出版業界で、「貸与権連絡協議会」を8月4日に設立。本の貸与権確立のための著作権法の改定を促す運動を開始した。



(12)電子書籍と電子端末 (2003年9月23日号掲載)
 今秋、マンガが見開きで読める液晶ディスプレイ(電子表示装置)が幾つかのメーカーから発売される予定である。
 この表示装置、数年前に電子書籍のニューフエースとして、話題を呼んだことがあるが、「重たい、電気の消費が激しい」などの理由で、実験的なデモンストレーションに終わった経過がある。
 新しいディスプレイは、メーカーの仕様書によると、「単三電池2本で3〜6ヶ月」「1万ページ程度使用できる」などとなっており、電子書籍のコンテンツ(中味)は、WEBサイトで配信するほか、書店などで、メモリカードにダウンロードできる装置を設置するとのことで、重さも500グラムとまずまずだが、価格が3万円程度と高価である。
 マンガを読むために、果たして、3万円もの高価な電子端末を「どれだけの人が購入するのか?」と案じていたら、この装置、新東京国際空港公団が、海外旅行者などに実験的に「貸し出し」するとのことで、思わぬニーズも出てきた。
 電子書籍の利点としては、「複製が簡単である。大量の配信が出来る。更新情報がすぐに作れる。検索性に富む」などさまざまあるが、その反面、「見やすい表示装置がない。著作権上の問題がある。安定した課金システムが開発されていない」などと問題点も多い。
 電子書籍の表示装置としては、電子ブックに加え、マイクロソフトのe-Bookリーダーやアドビ・アクロバットによるの閲覧ソフトなどさまざまあるが、その表示装置やソフトごとの仕様に左右され、汎用性のある電子書籍用の表示装置になりえない。
 だとしたら、それらの電子ビューワーソフトは、インターネット上で、無料配布され、電子書籍の読書環境が整わない限り、新しいデジタルコンテンツの普及は、遠い夢に終わるといえよう。


©2003年 Shimomura