マルチメディアと出版の近未来


2.6  電子出版の動向

*進化する電子辞書
 ソフトの方では、エンタティメント型のヒットが話題を提供してきたが、97年に発行された小学館の『日本大百科全書』は、全26巻の『日本大百科全書』の他に『国語大辞典』がCD-ROM版に収録されており、38万項目、9000万文字の検索が可能と話題を呼んだ。また、同様な百科事典として平凡社の『世界大百科事典』やマイクロソフト社の『エンカルタ』などの新しいタイプの電子百科事典が好評を得たのを契機に、“辞典・事典”の電子化が、改めて話題を呼んできた。これらの商品は、一年半サイクルで、それぞれ、バージョンアップ版が発行されており、電子商品の改訂版発行の早さも、紙メディアにはない魅力の一つである。
電子商品の中でも、最もヒットし、20万部の販売実績を持つ『電子広辞苑』も、動画を含んだマルチメディア版を発売、小学館の『大辞泉』やマイクロソフト・小学館の『ブックシェルフ』、三省堂の『大辞林』などが相次いでCD-ROM版を発行、大型事典の電子ア化が促進された。
 99年に入り、これらの百科事典は、CD-ROMからDVD-ROMへとエンタテイメントな要素も取り入れ、マルチメディア化し、『マイペディア』や『エンカルタ』などは、インターネットのリンク機能を追補するなど一段と進化してきた。
 日立デジタル平凡社は、99年9月に、全35巻の『世界大百科事典』、マルチメディア百科『マイペディア』と『年鑑』を1枚のDVD-ROM収録した『世界大百科事典(第二版プロフエショナル版)』(48000円)を発売。また、マイクロソフト社は、辞典の『ブックシェルフ』、『百科地球儀』、『現代用語の基礎知識』などを統合したDVD版『エンカルタ総合大百科2000』(28000円)を発売、マルチメディア機能を一段と充実させた。
 マイクロソフト社では、98年春に発売された『エンカルタ』以来、最新の情報をインターネットやマイクロソフトネットワークで更新データの提供を開始、毎月150〜200程度の新サイトを提供、付属の『年鑑』の各国情報、トピックス、流行語などを更新、CD-ROM型百科事典ならでわの高付加サービスを実施し、紙メディアにない魅力を提供してきた。
 また、アメリカのエンサイクロペディア・ブリタニカでは、「知の宝庫」として定評のある英文版『ブリタニカ百科事典』全巻を1999年10月より、インターネットで無料公開した。日立デジタル平凡社では、インターネット経由で『世界大百科事典』の「時間貸し」を1999年12月から開始した。検索画面83000項目、7000万字分のデータベースが利用でき、キーワードで、必要な項目を探し出せる。年会費制もあるが、一回100円で、6時間までとのこと。また、毎月、時事問題をテーマにしたオンラインマガジンも発行するとのこと。「ネット百科時代」の到来を予感させる時の流れである。
 日立デジタル平凡社は、出版社の持つコンテンツのデジタル化の受け皿会社として設立されたもので、今後のデジタル化をめぐる一つの動向として注目されてきたが、2000年3月、両社は提携を解消し、今後、その事業は、日立システム&サービスが引き継ぐこととなった。
 また、書籍タイプでは、新潮社の『新潮文庫の100冊』がハイブリッド版(Windows版・Mac版共用ソフト)のエキスパンドブック形式のCD-ROMで発売されたのも話題を呼び、CD-ROM商品のベストセラーとなった。
 CD一枚に「こころ」や「一握の砂」「異邦人」「嵐が丘」などの文学作品(文庫117冊、35000ページ)が収録されており、文庫本の総定価45000円分が15000円で提供されているもの。若者だけでなく中高年のオールドファンも多くの関心を寄せた。新潮社では、その後、『新潮文庫絶版100冊』を発行した。
 エキスパンドブックは、本により近いイメージでソフトが作られているのと、ボインジャ社の開発用のツールは、Mac版が35000円、Windows版が45000円で、これを使えば、レイアウト、写真、動画などの処理が自由にできることから、自家出版型のメディアとしても使われている。
 また、ボインジャ社では、「T-Time」(15000円)と呼ばれるソフトも開発、「縦書きでなければ小説を読む気になれない」という、日本独特のニーズに応え、本の機能をパソコン上で実現できるソフトとして注目されている。今後、「電子書籍」をめぐり、より読みやすい「ディスプレィの開発」が期待されているとき、読むことに特化した「T-Time」のあり方は、一目に値するといえよう。
 変わった意味で、話題を呼んだソフトに、PICT-ROM(ピクトロム)を採用した大月書店の『マルクス・エンゲルス全集(全53巻)』がある。この方法は、既存の版面をそのままアナログ型の画像データとして読み取るもので、データベース化された索引だけはディジタル化されている。
 7枚のCDに40000ページに及ぶ人類の知的財産といえる貴重な著作が収録されたこの方法は、今後、さまざまな文献の復刻などに利用できるものとして期待が寄せられている。
 この他に、電子メディアとしては、3Dや光ディスク、フォトCDなどがおもしろい使われ方をしているし、96年には、動画が2時間以上収録でき、多目的な用途を持つDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)も登場した。しかし、DVDは、10兆円ビジネスといわれる反面、ソフト不足に苦戦を強いられている。
 また、パッケージメディアやインターネットのようなオンラインメディアだけでなく、デジタル衛星放送「パーフェクTV」を利用した「衛星授業」に東京書籍や新興出版啓林館などの教科書会社が大手学習塾ナガイと共同で教材を開発する動きもある。


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