マルチメディアと出版の近未来


1.3  情報の発信と社会的責任

*情報の発信と社会的責任
 発信された情報が、どんな内容であり、誰が責任を持つのかという問題が提起されているが、発信者自身のモラルと社会的責任を信じるしか方法はない。
 アメリカの「電気通信法」の改正で「下品な情報」を送信したものは、最高25万ドル(約2600万円)の罰金、および禁固刑を科すと定められたが、“下品”の定義があいまいであるとコンピュータ会社や情報提供会社が連邦地裁に提訴したり、表現の自由を保障しているアメリカ合衆国の憲法に抵触する決定であると“黒いホームページ”を発信したり、青いリボンで画像を飾ったりして、抗議の意思表示をしたり、さまざまな社会反応があり、「表現の自由」をめぐって争われてきた。 ペンシルバニア州東部地区連邦地方裁判所で「一定の条項については限定的に違憲である」との判断が示され、1997年6月26日、最高裁判所でも同判断を是認する「判決」が下され、改正「電気通信法」は無効になったと伝えられる。
 国家としてはシンガポールが初めて国の法律で規制法を成立させており、中国などでは、ポルノや政治的ホームページの実質的な検閲を行われており、本来、自由なメディアである“インターネット”にも、いわば国境≠ェ設けられている。
 日本でも、すでに96年に都内の会社員と高校生の二人が警視庁から、刑法の“わいせつ図画公然陳列罪”で摘発されている。都内にあるプロバイダのホストコンピュータにわいせつな画像を送信し、不特定多数のユーザーに見せたというケースである。
 警視庁の摘発が良いのかどうかは別として、この場合、国内のことだから、国内法で対処できることになる。しかし、発信先が海外の場合は、刑法175条の適用というわけにはいかないし、ネットワークの提供者やプロバイダを“ほう助罪”で取り締まるのも、かなり無理のあることだと思える。
 また、97年2月には、大阪の朝日放送が開設しているホームページ「ABCセンター」の天気予報画面にわいせつ画像を流したとして、わいせつ図画公然陳列罪と電子計算機損壊業務妨害容疑で会社員が逮捕された。他人のホームページに侵入して、破壊するいたずらは「クラッカ(壊し屋)」と呼ばれている。
 しかし、日本では、アメリカのように警視庁の摘発に表現の自由≠ナ真正面から、その善し悪しを議論する風潮がないのは残念なことである。
 規制の対象は、ポルノ情報とともにギャンブル情報も問題になっている。アメリカでは、ギャンブルの規制の甘いカリブ海の国々から発信される違法ギャンブルに頭を痛めているし、ましてや“ギャンブルご法度”の日本ではなおさらのこと、“電子カジノ”にお手あげ状態である。
 国境を超えた“ポルノ”や“ギャンブル”だけでなく、ホームページのいわば裏番組にあたる“ウソのホームページ”など多くのニセ情報もあふれ、“パロディ”と簡単に割り切れない誹謗・中傷やプライバシーの侵害も、ブラックキャンペーンとしてさまざまな問題を引き起こしている。


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