ようこそ出版メディアパルへ

◎ 今月のプログラム
 出版メディアパル

著作権相談室
戦前の雑誌の写真の利用について
出版メディアパル編集長 下村昭夫

著作権の相談より

T. 戦前の雑誌の写真の利用について

■ 質問
 戦前に発行されていた「報道雑誌」などの写真を使って、「戦争と生活」という単行本を発行したいと考えています。
 その時、それらの雑誌の批判的「引用」は、許されるのでしょうか?
 また、写真などの「著作権」はどのように考えればよいのでしょうか?

■ 回答(お問い合わせの件、下記のように考えます)
 はじめに、写真を含む記事の「引用」について考えてみたいと思います。
 著作権法第32条では「公表された著作物は引用して利用することができる」と規定されています。
 この場合において、「引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他引用の目的上正当な範囲で行われるものでなければならない。」と規定されています(第32条第1項)。
 適法引用について、最高裁は「引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められなければならない。」としています(パロディ事件またはモンタージュ写真事件)の判決)。
 引用にあたっては、引用目的上の条件、「主と従」の関係(量的な関係でなく適正なこと)、引用の慣行上の条件(本文との明瞭な区別、原文のまま、著作者人格権の尊重など)に留意する。引用箇所には出所明示(第48条)義務があり、原則として、引用箇所ごとに、著作者名、題号、引用頁、版元名などを明記する必要があります。
 なお、アメリカ法には、「引用規定」がなく、「公正利用(フェアユース)でなければならない」とされており、しばしば、概念の違いから、トラブルになることもあるので、留意する必要があります。
 以上のことから、お問い合わせの件は、あくまで、著者の文章が中心であれば、たとえ批判的な「引用」であっても、基本的に「OK」です。主と従(引用個所)の明瞭区分や出所明示の仕方に留意していただければ幸いです。。
 なお、許諾を取って利用する場合には、「引用」に当たらず、使用するということになり、相手方の条件に従う必要があり、「(c)第1発行年、著作権者名」を明示しなければなりません。 

 次に「写真」の著作権について考えてみます。
 写真の著作権については、現行法では、「著作権者の死後50年」なっていますが、1956年12月31日までに公表された写真の著作物については、旧著作権法(明治32年)の規定により、「創作後10年、公表後10年経過すると消滅している」と考えられます(なお、1957年1月1日以降に公表された写真の著作物については、現行法の規定が適用される)。
 したがって、本件のご相談の「写真の著作権」は消滅していますので、「自由に使用する」ことが可能です。
 ただし、使用に当たっては、出所明示や撮影者のお名前など、クレジットを丁寧に入れることで、オリジナルの著作者(撮影者)や著作権者に敬意を払う必要性を感じます。編集上、留意していただければ幸いです(著作者人格権は、「一身専属」とされていますが、永久に留意されるべきだと考えます)。
 なお、写真の「肖像権」をめぐる問題も考えておきたいと思います。
 ある人物が、一旦、「公表」することを受諾したとしても、70年前のことで、改めて「公表」されることに「不同意」ということ考えられないことではない。
 この写真集の「歴史的意義や文化的価値」を上手に「はしがき」などで謳うことで、何らかの対応策をとってはどうか。
 また、「著作権法」の問題がないとはいえ、特定の雑誌だけからの「複製」も気にかかることであり、できるだけ丁寧に「原著作者」「原著作権者」(発行元・発行雑誌名。カメラマンの名前)など)の表記は入れたほうがよいと思えます。

「出版メディアパル」のホームページ


このページの著作権はすべて出版メディアパル編集長 下村昭夫が保持しています。
Copyright (C) by Shimomura Teruo